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2017年5月24日水曜日

術後, 出血後貧血には短期的な鉄IV投与を

似たような論文も過去に紹介しています

出血による貧血にはルーチンで鉄剤を


今回はJAMAよりFAIRY trialを紹介
FAIRY trial: 韓国における多施設RCT.
胃切術後 Day 5-7におけるHb7.0-10g/dLである454例を対象としFerric carboxymaltose 500mg 1回もしくは2回静脈投与(体重に応じて) vs Placebo(生理食塩水)投与群に割付け, 12wk後のHbを評価.
(JAMA. 2017;317(20):2097-2104. )
・Ferric carboxymaltoseは体重50kg以上では1000mg, 50kg未満では500mg
 血清フェリチン<15ng/mLHb<10g/dLを満たす患者では, 3wk目に再度500mgを投与(Placebo群では生理食塩水)

母集団

アウトカム

・12wkにおけるHb≥2g/dLの上昇もしくはHb≥11g/dL達成の頻度は有意に鉄剤使用群で多い結果.
上記双方ともNNT2-3程度と良好.

Sub解析
・フェリチン≥30ng/mLでもHb上昇効果は期待できる.

フェリチン値の経過

・鉄剤非投与群では12wkの経過でフェリチンが徐々に低下する経過.
一時的な出血後, フェリチンは結構減少するため初期に問題がなくても鉄を補充しておくことは重要かも
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・手術や一時的な出血後の貧血では鉄剤をIV投与でローディングしておくことは有用な可能性が高い.
・Hbが一気に低下すると, 最初は正常であったフェリチンは数カ月の経過で低下してゆく. それを前もって補うことで造血を安定させることができる.

・フェリチンをフォローしつつ考えても良いと思うが, あまり頻繁にフォローするつもりがないならば尚更よいのかも

2017年5月18日木曜日

抜管が不安になる喀痰の量は?

人工呼吸器離脱, 抜管の評価にはSBTを用いる.
SBTを成功させた後に速やかに抜管するが, それでも抜管失敗する例はある.
(失敗は抜管後48-72時間以内の再挿管で定義されることが多い)

失敗リスク因子は以下のようなものがある
(N Engl J Med 2012;367:2233-9.)

喀痰が多いというのは一つの抜管失敗リスクとなるが,
どの程度多いとダメなのか?

熱傷患者で挿管管理を行なっている125例の報告
(burns 39 (2013) 236–242 )
・SBTが成功した患者群で抜管を行い, 抜管失敗リスクを評価.
・17例で抜管失敗
・抜管失敗のリスク因子はCPF≤60L/min (cough peak flow)と気道分泌量
・気道分泌量は抜管前6時間での吸痰頻度で評価しており, 
 上記スコア4は1時間に1回以上の吸痰を必要とする場合に失敗リスクとなる.

ICUにて2日間以上の挿管管理を行い抜管を施行した122例の前向きcohort.
(Respir Care 2007;52(12):1710 –1717. © 2007 )
・全例でSBTが成功したのちに抜管.
抜管失敗(48h以内の再挿管で定義)13%(16)
抜管失敗に関連する因子は以下の3項目
 中等度~多量の気管内分泌物(軽度: 2-4h1, 中等度 1-2h1回の吸引, 多量 1hに数回)
 GCS≤10
 SBT時の高CO2血症 PaCO2 ≥44mmHg

ICUで挿管管理され, SBTが成功した100例の前向きCohort.
(CHEST 2001; 120:1262–1270)
・上記患者群で, 喀痰量, 咳嗽の強さ, White card test(WCT)など評価し抜管失敗リスクを評価した.
・WCTは気管チューブ開口部から1-2cm離して白いカードを置き患者に挿管されたまま咳嗽をしてもらう. 咳嗽は3-4回ほど行う.
 カードに喀痰が付着すれば陽性と判断する.
咳嗽の強さは主観的に0-5で評価:
 0: 咳嗽できない
 1: 空気の流れはあるが, 音はしない
 2: 軽度の咳嗽音
 3: 明らかな咳嗽音
 4: より強い咳嗽
 5: 複数の連続した強い咳嗽
・喀痰量は抜管前4-6h以内の看護師や呼吸療法士などの主観的評価
 なし, 軽度, 中等度, 多量で評価

アウトカム 抜管失敗(72h以内の再挿管)18.
・抜管失敗リスク因子:
 喀痰吸引の回数が2時間に1回以上, 中等度~多量な喀痰
 咳嗽の強さが弱い~咳嗽できない
 貧血(Hb≤10g/dL)
・WCT陰性もリスクとなる

喀痰量と咳嗽の強さの組み合わせはより抜管失敗リスク評価に有用

各指標と抜管失敗に対する感度, 特異度
・喀痰量が中等度~多量の場合もしくは2時間に>1回の吸痰を必要とする場合は強く抜管失敗を示唆する.
咳嗽の強さとWCT試験の相関性は高い.
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・上記の報告からは, SBTが成功しても喀痰量が多く, 咳嗽の力が弱い場合は再挿管となるリスクが高いと言える.
・リスクとなる喀痰量は中等度〜多量で, それは1-2時間に1回以上の喀痰吸引を必要とする程度の量と認識しておけば良さそうだ.
・咳嗽の強さはCPFなど定量的な方法もあるが, White card testや主観的評価も有用かもしれない.
・喀痰量と咳嗽の強さとの兼ね合いで抜管を検討することも大事なのであろう

2017年5月17日水曜日

変形性関節炎に対するステロイド関節注射はむしろ害かも

膝関節OAに対するステロイド注射は短期的な鎮痛作用が期待できるが, 長期的には微妙.
(JAMA 2016;316:2671-2)


有症状の膝関節OAでエコー上滑膜炎所見を認める140例を対象としたDB-RCT
(JAMA. 2017;317(19):1967-1975.)
・3ヶ月毎にトリアムシノロン(副腎ホルモン) 40mg 関節内投与群 vs 生理食塩水 関節内投与群に割付け, 2年間継続.
1回膝関節のMRIを評価し, 関節軟骨量と関節構造を評価
 また疼痛をフォローした

・患者は45歳以上でACROAクライテリアを満たし関節エコーにて滑膜炎所見, 関節液貯留を認める患者
・除外項目は罹患関節に影響を及ぼす他疾患(全身疾患, 敗血症, 骨壊死), 経口ステロイド, ドキシサイクリン, インドメタシン, グルコサミン, コンドロイチン使用, 使用歴. 関節内ヒアルロン酸, ステロイド投与歴, HIVなど

母集団

アウトカム: MRI所見
・関節軟骨の厚みはステロイド注射群で有意に菲薄化する結果.
軟骨へのダメージも多い.

アウトカム: 疼痛や関節機能, 症状の比較
・症状は両者で有意差なし.

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OAに対するステロイドの関節注射は短期的な疼痛の改善効果はあるのかもしれないが, 長期的には効果ない.
それどころか, 関節軟骨が薄くなる可能性も示唆された.

2017年5月11日木曜日

腹部のPseudohernia

中年の男性. 1ヶ月前からの右側腹部痛で受診.
腹部所見にて右側腹部が突出しているように見える.
(CT画像のスカウター, 冠状断を示す)


この所見はPseudoherniaと呼び, 腹壁筋を支配する運動神経の麻痺により生じる.
胸椎のRadiculopathy(多いのはTh10-12)や帯状疱疹後に認められる.

上記症例は胸椎領域の右椎間孔狭窄があり, Radiculopathyによるものと判断しました.

Radiculopathyに伴う症例報告やReviewは文献検索では引っかからず,
帯状疱疹後のPseudoherniaはいくつか文献があったので紹介.

NEJMの画像シリーズから
・帯状疱疹後4週間経過し皮疹が消退しかけたころに生じた腹壁の左右差.
・このように帯状疱疹の3-5%で運動麻痺を生じる
(N Engl J Med 2006;355:e1)

VZVによるPseudohernialiterature review
(PM R 2013;5:786-790)
・36例の症例報告の解析
・平均年齢は67.5, 男性例が28例と多い左右の偏りは無し.

出現のタイミング, 部位

・9割が皮疹後に麻痺が出現する
皮疹~麻痺までは1未満-3wk以上と様々
 中には麻痺のみで皮疹を認めないものもある.
部位はT10-12領域が多い

予後
完全に改善するのが64%
改善を認めないのは8%であった.
改善する場合, 1年以内に改善を認める.
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2017年5月8日月曜日

たこつぼ型心筋症なのか、心筋梗塞なのか

ICU管理において, 心臓壁運動が低下し, ST上昇や陰性T波なんぞあると,
ストレスによるストレス性心筋症(たこつぼ型心筋症)か、STEMIなのか非常に迷う。

例えば心電図で見分けるとすると, それはQT延長の有無が重要となる.
たこつぼ型心筋症ではQTが延長することが多く, 平均QTcは 450-500msecとなる.
(Ann Intern Med 2004;141:858-65)

ただし, STEMIでも延長しないかというと, そうでもなく,
QT延長 = MIではないとは言えない. これはむしろ, 感度が高い所見であり,
QT延長が無い = MIを先ず疑うべき という様に捉える必要がある所見.

ちなみに, 心電図変化はどんなものがあるか, どの誘導で変化が出やすいかというと,

Study(n)
[1] (88)
[2] (30)
[3] (17)
[4] (16)
[5] (13)
[6] (9)
[7] (7)
ST上昇
90%
100%
82%
81%
46%
100%
86%
前壁ST上昇
85%
97%
81%
38%
100%
86%
異常Q wave
27%
6%
31%
31%
QTc 平均
500ms
501±55ms
450ms
HF, 肺水腫
22%
3%
44%
46%
29%
感情ストレス
20%
17%
18%
38%
23%
22%
14%
身体ストレス
43%
17%
77%
44%
46%
33%
71%

[1] J Am Coll Cardiol 2001;38:11-8
[2] Am Heart J 2002;143:448-55
[3] J Am Coll Cardiol 2003;41:737-42
[4] Am J Cardiol 2004;94:343-6
[5] Heart 2003;89:1027-31
[6] Jpn Circ J 2000;64:156-9
[7] QJM 2003;96:563-73

Leads
ST elevation
T-wave inversion
入院時
48hr
入院時
48hr
I
48%
0
14%
62%
II
3%
0
3%
59%
III
3%
0
0
0
aVR
0
0
0
0
aVL
48%
0
17%
62%
aVF
3%
0
0
0
V1
0
0
0
3%
V2
17%
0
0
28%
V3
24%
0
14%
59%
V4
59%
0
24%
62%
V5
59%
0
24%
62%
V6
59%
0
24%
62%

J Cardiovasc Med 2008;9:916-21

こんな感じであり, 前側壁で多く, これも大した鑑別点とはならない.

心原性酵素はどうかというと,
・たこつぼ型心筋症の86.2%[79.0-91.2]でトロポニンは陽性となり, CKの上昇は56%, CK-MBの上昇は73.9%で認められるため, 酵素上昇の有無でも見分けることは困難.
・ただし, 酵素上昇は通常軽度で済むことが多いことが1つのポイント.

たこつぼ型心筋症 59例と, 同時期に受診したSTEMI 60例を比較したRetrospective study
(Am J Cardiol 2014;113:429-433)
タコツボ型心筋症ではより女性が多く, 高齢者. 
・また, Troponin I値は双方で上昇するが, STEMIで有意に高値となる.
・LVEFはタコツボ型心筋症の方が低下する.
・タコツボ型心筋症では, EFがより低く, Trop Iも低い.

Troponin-EF product(TEFP) = [Peak Trop I] x [LVEF]で評価すると,
・TEFP ≥250は, 感度95%, 特異度87%STEMIを示唆する.
・またTEFPはTrop I単独よりもSTEMIの診断能は良好.

このStudyではValidationが無いため, このまま臨床に応用するのは危険だが,
"Tropや心原性酵素上昇が, EF低下の割にショボい" という印象は1つのたこつぼ型心筋症を疑う切っ掛けとなるのではないか.

また, EFが40%台と軽度の低下程度はSTEMIの方が多いかもしれない. という嗅覚.


タコツボ型心筋症 58例とAMI 97例において,  心筋バイオマーカーを比較した後ろ向き報告
(J Cardiac Fail 2014;20:2-8)
・タコツボ型心筋症の診断は以下:
 急性のACS様症状で, ST, T変化+CKMB, Trop T上昇を認め典型的な壁運動低下, 且つ完全に改善を認める症例
 また>50%の血管狭窄を認めないことで定義.
・18歳未満, eGFR<60mL/min, AKIを認める症例CHF(LVEF<45%)の既往がある症例, 心筋症既往がある症例, 敗血症性ショック, 肺塞栓, 重症ASを認める症例は除外.
心筋バイオマーカーは最初に, 同時に評価されたマーカーを使用した

母集団とマーカーの比較

・QT延長はタコツボ型心筋症で多い.
・TnTは有意にAMI群の方が高値となる.
一方でBNPはタコツボ群の方が高値.
 BNP/TnTでは両者の差が大きくなる.

AMI(STEMI, NSTEMI) vs タコツボ型心筋症の鑑別
・BNP/TnT, BNP/CKMBを指標とすると両者鑑別における感度が高くなるが, それでも7割満たない程度.

CK-MBとBNPの分布
・タコツボではCKMBの上昇が軽度の割にはBNPが高値となりやすい.

タコツボ型心筋症 39, STEMI 48, NSTEMI 34例における心筋バイオマーカーを比較した報告
(International Journal of Cardiology 154 (2012) 328–332)
・診断にはMayo Clinic criteriaを使用:
 一過性の心臓壁運動低下, 冠動脈狭窄がない, 新しいST上昇, 陰性T, 軽度トロポニン上昇, 褐色細胞腫や心筋炎を認めない.
虚血性心疾患既往, 心筋症既往, eGFR<30mL/minとなるような腎不全, ペースメーカー波形の患者は除外
STEMI, NSTEMIはタコツボ群と年齢, 性別を合わせて抽出

母集団の比較
・EFはタコツボ型心筋症群が最も低い

タコツボ型心筋症群のデータ

バイオマーカーの値と変動


・タコツボ型心筋症ではCK-MBTnT値が最も低い(単位はµg/Lであり, 国内のng/mLにそのまま置き換えてOK)
一方でNT-proBNPは最も高値となる.
また, MIにおけるTnTCK-MBのピークは入院後のフォロー時となるがタコツボ型心筋症では入院時のTnTがほぼピーク値となっている.
・NT-proBNPのピークはさらにその1日後となる.

NT-proBNPTnT, CK-MB値によるタコツボ vs MIの比較.

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「EF低下やBNP, NT-proBNP上昇の割には, TropやCK-MBなど心原性酵素上昇がしょぼい」というのがタコツボ型心筋症の一つの特徴と言えそう.

これを定量的に評価する方法として、
心原性酵素 x EF
BNP, NT-proBNP / 心原性酵素 という評価が行われている.

また、経時的変化も重要.
 タコツボでは心原性酵素は初回評価でほぼピークとなる一方, その後のフォローでさらに上昇している場合はやはり虚血の疑いが強い.
 BNPやNT-proBNPはday 2でピークになることがほとんど.
 時期によっても上記計算式は調節せねばならないのかもしれないし, 基本腎不全症例は除外されているので, AKI合併例では要注意(Tropが高値に出やすい)