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2012年5月11日金曜日

症例; 77歳男性 突然の両手の腫脹

外来症例
77歳男性; 突然両手の腫脹
来院4日前に庭の草むしりをしており, 来院3日前の朝に両手全体の腫脹と強ばりを自覚。
手関節も疼痛、熱感あり。両手は手甲部、指全体の腫脹、圧痕を認める浮腫あり。
両足首の腫脹も認めたが、ここは疼痛はなかった。

他には両肩の軽度疼痛あり。肘、腰、股関節、膝関節は問題無し。
皮疹なし。爪の変化なし。粘膜疹なし。頸部痛なし。

既往歴、内服なし。

身体所見では手関節、足首関節の腫脹と、手関節の疼痛。
両手はPIP,MP,DIPの腫脹は無いが、全体がグローブ上に腫脹あり。圧痕を伴う浮腫。
皮疹なし。爪の変化なし。

血液検査では軽度CRP上昇。4mg/dL程度。
他には異常値無し。
抗核抗体陰性。抗CCP抗体陰性。RF陰性。

さて、この疾患は?
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RS3PE(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema)
 高齢男性に多いSeronegative RAの1つ.
 左右対称性の遠位骨膜炎、手足のPitting Edemaを特徴とする。
 症例報告レベルでは浮腫が片側のみ場合もあり。

 膠原病(側頭動脈炎、強直性脊椎炎、晩期発症RA、PMR、シェーグレン)との合併例や
 悪性腫瘍に伴う傍腫瘍症候群としての発症が知られている(後述) (J Rheumatol 2012;39;148-153)

国内での頻度
国内の症例報告では、旭川医大の総合診療外来での頻度を調査したもの(Rheumatol Int 2011 online first.),
亀田病院での頻度を調査した物がある.(J Rheumatol 2012;39;148-153)

旭川医大 2004-2010年の間にPMRと診断されたのは10例, RS3PEは3例.
 同大学を受診した50歳以上の患者のうち, PMRは男性の0.22%, 女性の0.36%,
 RS3PEは全体の0.09%の頻度であった.

亀田病院 2000-2009年に診断した例では、PMRが123例(男性41%, 平均年齢74歳)、
RS3PEが28例(男性79%, 平均年齢75歳)
 PMRとRS3PEを比較したところ, RS3PEはより喫煙男性の割合が多く, PMRでは下肢帯の疼痛が多い、
 年齢、ステロイド反応性、再発リスクは有意差無し。
 また、悪性腫瘍が多いと言われていたRS3PEでも、実際悪性腫瘍は7%のみ。PMRでは6%のみと、
 高齢者ということを考えると、以前言われていた程合併は多くないとの結論であった。

悪性腫瘍とRS3PE
 といっても、やはり悪性腫瘍は気になるところ。
 傍腫瘍症候群としてRS3PEを発症した6例では、前立腺癌が4例、胃癌1例、大腸癌1例。
 日本国内で診断されたRS3PE 33例中、2年以内に悪性腫瘍が診断されたのは8例との報告もある。
 その8例では、肺癌2例、前立腺癌1例、直腸癌1例、大腸癌1例、乳癌1例、胃癌2例。

 傍腫瘍症候群としてのRS3PE 8例と、それ以外の24例を比較すると、
 ステロイド反応性、症状、検査所見は両者有意差無し.
 有意差を認めたのはMMP-3値のみで、
 傍腫瘍症候群では 437.3[107.9-761], Pure RS3PEでは114.7[41.3-2973.7]と、バラツキは大きいが、
 MMP-3が高値ならば傍腫瘍症候群の可能性が高い可能性がある。(Mod Rheumatol 2011 online first)

 何れにしても、PSAと胸部画像、可能であれば上下部カメラはしたほうがいいのかもしれない。

RS3PEの治療
 ステロイドが著効し、NSAIDは効きにくい。
 大体PSL 10-20mg/dでの治療報告が多い。文献では15-20mg/dLが主流。ほぼ効く。
 減量に伴う再発する例が25%前後あり、その場合はDMARD併用が有効かもしれない。
 (Mayo Clin Proc. 2007;82(12):1510-1515)

あんまりまとまった物がなかったのと、
丁度外来でいたのでまとめてみました。
By 高岸