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2014年11月30日日曜日

SAPHO症候群

SAPHO症候群; 
 Synovitis(滑膜炎), Acne(ざ瘡), Pustulosis(膿疱症), Hyperostosis(骨過形成), Osteitis(骨炎)を呈する症候群.
 上記病態の2つ以上を合併する症候群をSAPHO症候群と呼ぶ.

Case報告のほとんどが日本, スカンジナビア, ドイツ, フランスから.
 年齢は平均45yr, 17-63yrと幅広い.
 汗腺膿瘍, 手掌膿皮症も合併頻度が高い皮膚病変.
 Spondyloarthropathyとの合併例もあり. J Clin Rheumatol 2002;8:13-22
 炎症性腸疾患との関連性も認められている
 HLA B27抗体が13−30%の頻度で陽性となり, 遺伝性の要素も関連している Rheum Dis Clin N Am 39 (2013) 401–418
 自己抗体はANAが15.5%で≥160倍となるが, 特異抗体の陽性率は低い. J Rheumatol 2010;37:639-643

診断Criteriaは一応あることはある. 1987年にChamotが提唱したCriteriaだが, 症例数が少なく, Validationされていない為, 参考程度. 

無菌性の多発性骨炎
胸部, 脊椎, 骨盤, 長幹骨の侵襲があるが, 皮膚病変は無し
急性 or 慢性の関節炎で
手掌膿皮症, 手掌膿疱性乾癬, 重度のニキビ, 汗腺膿瘍を伴う
無菌性の単, 多関節炎で
手掌膿皮症, 手掌膿疱性乾癬, 重度のニキビ, 汗腺膿瘍, 毛嚢炎を伴う

S A P H Oの2つ以上を示す疾患であり, 骨過形成 + 骨炎のみのタイプ(CRMO; Chronic recurrent multifocal osteomyelitis)や, MRP(Multifocal recurrent periostitis), ACW-S(Anterior chest wall syndrome), Acne CRMO などなど様々なスペクトラムがある. 
JDDG 2008;6:657-660
 フランスでの120例の報告では, 膿皮症50%, 皮膚乾癬25%, 重度のざ瘡9%, 皮膚病変(-) 16%と, 皮膚病変を認めない例も多いJ Clin Rheumatol 2002;8:13-22

 Anterior chest wall syndromeとは, SAPHOに特異的と言われる胸鎖関節炎を呈する病態.
(当然SAPHO以外にも認めても良い)
また, クローン病を併発する例もある(8.5%) Arthritis and Rheumatism 2009;61:813-821

SAPHO症候群のスペクトラム: SAPHO umbrella Clinical Radiology 67 (2012) 195-206 


ドイツの単一施設におけるSAPHO症候群52例の解析 Clin Rheumatol (2011) 30:245–249 
性別
男性 26, 女性 26
皮膚病変
63.5%(33)
年齢
42±12[15-73]
手掌膿疱症
51.5%(17)
初発年齢
37±13[10-71]
ざ瘡
39.4%(13)
骨関節病変

乾癬
33.3%(11)
前胸部痛
73%


末梢関節炎
32.7%
ESR
30±30mm/h[2-99]
仙腸関節症状
26.9%
HLA B27
17.7%
上肢帯
23.1%


背部痛
13.5%


体幹痛
5.7%


関連痛
1.2%


無症候性
3.8%


画像所見での病変部位
部位

CT所見

胸鎖関節
72.7%
硬化性病変
77.3%
胸骨柄結合
34.1%
骨びらん
44%
仙腸関節
20.5%
Hyperostosis
41%
肋胸骨関節
16%
軟部組織異常
13.6%
椎体
2.3%
関節腔狭小化
9%
下顎
2.3%
骨強直
7.5%
慢性再発性多発性骨髄炎
2.3%
骨融解
1.5%

2003年ACR 67th Meetingで提唱されたSAPHO症候群の分類 
Int. J. Oral Maxillofac. Surg. 2010; 39: 1160–1167 


◯骨病変; Osteitis, Synovitis, Hyperostosis Skeletal Radiol (2003) 32:311–327
 慢性の炎症に伴う骨過形成 ± 骨融解.
 骨皮質の肥厚と髄質内の骨形成を認める.
 Synovitisは前胸部(胸鎖関節), 仙腸関節 > 末梢のmono-polyarthritis
 Hyperostosisは前胸部, 脊椎 > 長寛骨に認められる.
 
 成人のSAPHOの65-90%で前胸部病変あり.
 最も多いのは胸鎖関節, 上位肋骨, 肋軟骨, 胸骨柄癒合部
脊椎は成人例の33%で病変を生じる
 胸椎が最も多い. 胸椎病変は主に4タイプ.
 Non-specific spondylodiscitis; 初期の所見で,  椎間板炎とそれに接した椎体の炎症, 病変.
 Osterosclerosis of ≥1 vertebral bodies; 椎体に炎症が及び, 骨硬化像を認める
 Paravertebral ossifications; 椎体周囲の炎症. 椎体間の石灰化を生じることもある. Psoriatic arthropathyと類似
 Sacroiliac joint involvement; 13-52%, 片側性
長寛骨; 30%で長寛骨病変を認める
 多い部位は大腿骨の遠位部, 脛骨の近位部で多い.  腓骨, 上腕骨, 橈骨, 尺骨でもありえる.
 骨硬化像, 皮質の肥厚, 骨周囲の化骨.
Flat bones; 主に腸骨と下顎骨. 10%で認める
 腸骨の骨硬化は仙腸関節病変に伴って出現.
 下顎骨はびまん性に病変を生じ得る.
 下顎のPrimary chronic osteomyelitis(PCO)のうち, 85%がSAPHOの診断クライテリアを満たす. 下顎病変で感染や悪性腫瘍が除外できればSAPHO症候群に特異的と言えるかもしれない. (Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol 2013;116:692-697)  


Peripheral arthritis; 
 関節炎は92%と高頻度. 軸関節は91%, 末梢関節炎が36%.
 関節破壊は稀.
 末梢関節炎では膝, 股関節, 足で多い.
 小関節炎も合併しても良い.

SAPHO症候群の鑑別疾患 Rheum Dis Clin N Am 39 (2013) 401–418 



SAPHO症候群 71例のフォロー Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 813–821
 (女性48名, 男性23名), 平均11yr[6-11.5]フォロー.
 骨関節症状の初発年齢は38.5[33.7-50.2], 診断時は45.5[35.7-54.0]
 HLA-B27陽性例は4%
 6名(8.5%)がCrohn病を併発.
 皮膚所見を伴わない例が14例(20%)であった
 治療はNSAID, ステロイド(PSL 10-25mg/d)が最も多い.
 ステロイドは68%で使用される.
 DMARDs(Sulfasalazine 2-3mg/d, MTX 10-20mg/wk,  Leflunomide 20mg/d)は21名で使用された.

71名の臨床症状と, 慢性化へのRisk Factors
所見

@ onset
@ end of follow up
慢性化(>6mo) OR
骨関節病変
前胸部病変
70%
83%
5.7[1.8-18.1]

炎症性背部痛
24%
13%


脊椎
34%
66%


下顎, 長幹骨
4%
11%


末梢滑膜炎
11%
28%
P=0.0036

Perilesional florid soft tissue
1%
4%

皮膚病変なし
44%
20%

皮膚病変あり
56%
80%
10.3[3.4-31.1]

掌蹠膿疱症(PPP)
50%
60%


重度のニキビ(SA)
23%
19%


尋常性乾癬(PV)
8%
5%


汗腺炎(HS)
0
2%


PPP+SA
12%
14%


PPP+PV
0
0


PPP+HS
2%
0


SA+PV
0
0


SA+HS
5%
0


PV+HS
0
0

所見

@ onset
@ end of follow up
慢性化(>6mo) OR
その他
炎症性腸疾患
3%
8%


自己免疫性甲状腺炎
10%
28%


Aspecific bowel disorder
0
4%

検査所見
ESR≥20mm/H
21%
35%
7.7[2.7-22]

CRP≥5mg/L
17%
30%
7.7[2.7-22]

RF(+)
0
0


ANA(+)
0
3%


ENA(+)
-
0


Anti-TPO≥35IU/mL
36%
21%


Anti-Tg≥115IU/mL
29%
23%


HLA-B27(+)
-
4%

ENA; Extractable nuclear antigens, TPO; Thyroid peroxidase, Tg; Thyroid globulin
病状の経過;
3-6moの経過で改善. 単発のエピソードで再発なし
13%
<6moの経過で改善し, その後再発を認める. 再発までの期間は2-8mo
35%
軽快, 増悪を繰り返し, 長期間の治療を必要とする慢性type
52%
 長期的な予後は良好であり, 10yr経過後に重大な機能障害をきたしているのは2/71のみであった.

SAPHO症候群の治療 JDDG; 2008;6:657-660
決定的な治療は未だ無し.
 鎮痛としてNSAIDが中心となり, 試験的にPSL, MTX, Sulfasalazineが使用される.
 PSLは主に皮膚病変に効果が期待できるが, 骨病変, 骨痛緩和効果は乏しい.
抗生剤による治療
 SAPHOの機序の1つにCorynebacterium, Propionibacterium acnesの慢性感染とそれに対する免疫反応の可能性が示唆されている.
 従って抗生剤の投与が治療として試される.
 (ドキシサイクリン, アジスロマイシン, クリンダマイシン)
 効果は症例報告で報告がある程度.

骨病変にはBisphosphonate IV治療が有効の可能性.
 PSL投与後も残存した骨病変, 疼痛に対して, Zoledronic acid 4mgを外来にて1回投与したところ, その3日後には疼痛改善, 数ヶ月後にはQOLが改善したとの報告あり

SAPHO症候群に対するBisphosphonate
18歳の下顎骨炎を繰り返すSAPHO症候群の症例において, 疼痛が強かったため, Zoledronic acid(ゾメタ®) 4mg 1回 IV施行後6ヶ月間は症状が改善. 6ヶ月後に軽度の疼痛出現したため, 2回目投与.
 3回目投与前に骨シンチ施行したところ, 病変部は著明に改善を認めた.
ARTHRITIS & RHEUMATISM 2004;50:2970-73

SAPHO syndromeに対するpamidronate(アレディア®Rheumatology 2004;43:658–661
 1999-2003年に, NSAID, PSL, コルヒチン, MTX, Sulphasalazine, Infliximabに不応性のSAPHO症候群10例に対して, Pamidronate 60mgを1hrで投与.
 反応が無い場合は1mo以内に再投与, 反応ある場合は4mo後の再投与を施行.
骨炎, 骨過形成, 骨痛, 滑膜炎の程度を評価.
Outcome; 
 10名中, 6名が完全寛解. 3名が部分寛解(50%以上の改善)
 反応を示さなかったのは1名のみ.
 投与回数は4回が2名, 3回が1名, 2回が6名, 1回で改善したのが1名.

国内ではIVの保健適応が無いが, 経口のBisphosphonateでも疼痛緩和、病変の改善効果を示した症例報告があり, 試す価値はある. 今後に期待される.

抗TNF-α阻害薬 J Rheumatol 2010;37:1699-1704 The Journal of Medicine 2012;70:444-449
NSAID, MTX, pamidronate, 抗生剤投与でも疼痛のControlが不良なSAPHO 6例で抗TNF-α阻害薬を使用
 使用したのはInfluximab 4例, Etanercept, Adalimumab 1例ずつ
 4/6(66%)で臨床的な改善効果を示した
 皮膚所見は3/4で改善を認めたが, 2例で再発 or 増悪を認めた.

他の治療でコントロール不良なSAPHOで抗TNF-α阻害薬を使用した19例の症例報告のまとめでは, 13例(68.4%)が1回目の投与, 4例(21%)が2回目, 2例(10.5)が3回目の投与で反応を示した. The Journal of Medicine 2012;70:444-449
 他の治療で改善の乏しいSAPHO症候群において抗TNF-α阻害薬でさらに改善が得られた報告は多い

外科手術
 下顎病変の治療については未だ決まっていないものの外科的治療により効果が認められる報告もあり Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2011;111:190-195