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2014年3月3日月曜日

糖尿病と膵癌

糖尿病と膵癌の関連

長期間の糖尿病は膵癌のリスク因子となるが,
膵癌の初発症状として糖尿病を呈することもある.

糖尿病患者における膵癌のリスク
糖尿病の罹患期間と膵癌のリスクを評価したMeta-analysisの比較. 
(World J Gastroenterol 2013 August 14; 19(30): 4861-4866)
長期間のDM罹患は膵癌のリスク因子となる傾向があるが, せいぜいRR 1-2の間.

短期間のDMの方がリスクは高い.
 >> これはDM自体が膵癌のリスクよりは, 膵癌でDMになっていると解釈すべきといえる.

膵癌患者における糖尿病のリスク
膵癌の4-20%で糖尿病を合併する
 OGTTでの耐糖能障害は45-65%で認めるとの報告もある.
 642例の新規に膵癌を診断した患者群では, 47%でDMの診断基準を満たす
 膵癌に由来するDMの40%は膵癌診断と同時期に診断され, 16%は膵癌診断から遡って2年以内に診断される.
 736例の新規膵癌診断患者では40%にDMを認め(vs Controlでは18%), その50%が新規発症.
 過去5年間に遡ると,  3年前より有意にControl群よりもDM率が高くなる
 膵癌診断の2-3年前よりDMは増加すると考えられる.
(Lancet Oncol 2009; 10: 88–95)

非癌患者, 膵癌以外の担癌患者, 膵癌患者でのDM合併率, 新規DM発症率の比較
 膵癌以外の悪性腫瘍ではDMリスクの上昇は認めない.
(Pancreas 2013;42: 198-201)

膵癌に由来するDMでは, 膵癌切除により耐糖能障害は改善する
 膵島十二指腸切除を行った30例の内, 17例が高血糖が改善.
 腫瘍部位+正常膵組織を切除したのにも関わらず, 改善を認めることから, 腫瘍によるインスリン分泌不全よりも他の因子が原因の可能性が高い.
 長期間のDMがある場合は膵癌術後も高血糖は改善しなかった.

膵癌による耐糖能障害の機序
 腫瘍自体による膵腺組織の破壊, 腫瘍による閉塞性慢性膵炎から組織破壊が挙げられるが, 画像に移らない早期からDMを合併する点からは, 局所障害よりはホルモン等の化学物質の影響が考えられる. ただし, その原因物質は特定されていない.
 また, 上記患者群ではC-peptide濃度は健常人よりも高い. (Lancet Oncol 2009; 10: 88–95)

膵癌の初期症状としての糖尿病, 耐糖能障害
新規発症のDMは膵臓癌の初期症状となる
 糖尿病発症して3年以内の50歳以上の患者2122例の解析では, 18例(0.85%)に膵臓癌を認めた.
 新規DM発症は通常の患者群と比較して7.94倍[4.70-12.55]の膵臓癌のリスク因子となる.
 特に>69歳は≤69歳群と比較してOR 4.52[1.61-12.74]と高リスク.
(Gastroenterology. 2005 August ; 129(2): 504–511)
 前述の通り, DMは膵癌診断の2-3年前より出現することがあるため, 初期検査で陰性でも2-3年はフォローする必要はある.
 また, 30例の解析ではDM発症〜膵癌診断までの平均期間は10ヶ月[5-29].
(Am J Gastroenterol. 2007 Oct;102(10):2157-63.)

DM患者で膵癌を認めた40例と非担癌患者のDM症例120例を比較した, 日本国内のStudyでは, DM発症〜膵癌診断まで2年以内を膵癌由来のDMと定義すると, <55歳でのDM発症例のうち, 膵癌由来のDMは1例も無し
膵癌由来のDM患者は全例55歳以上のDM発症であり, 高齢者, >50-55歳でのDM新規発症では膵癌の合併を考慮すべきかもしれない. (J Gastroenterol (2013) 48:238–246)

どのようなDM患者で膵癌を評価すべきか?
新規DMで膵癌合併(+)の151例と, 新規DMで膵癌合併(-)の302例を比較したRetrospective study. (J Clin Gastroenterol 2012;46:e58–e61)
 新規発症とは2年以内と定義し, 膵癌合併(-)はDM診断時〜18ヶ月後まで膵癌を認めない症例で定義.
 両群の比較;
膵癌合併例の方がより高齢, BMIが低く, DMの家族歴が陰性のことが多い.

多変量解析による膵癌リスク因子は以下の通り.

DM家族歴が無い + [以下の1つ] で感度80.8%, 特異度67.6%で膵癌を示唆.
 65歳以上, 
 2kg以上の体重減少, 
 元々のBMI <25.
PPV 2.5%, NPV 99.7% 

また, 糖尿病診断後も体重が減少してゆく経過は膵癌を示唆するとの報告もあり.
(Pancreas 2011;40: 768-772)

膵癌のスクリーニング方法
 CA19-9, DUPAN-IIでのスクリーニングを行い, 上昇があれば画像検査を行うことが推奨
 ただし, No Evidence.
(Lancet Oncol 2009; 10: 88–95)

まとめ
 ◯ 糖尿病は膵癌のリスクにもなるし, 膵癌自体の半数に糖尿病, 耐糖能障害を伴う.
 ◯ 糖尿病が膵癌の初期症状として出現することもある.
 ◯ 新規発症の糖尿病で膵癌のスクリーニングが推奨されるのは DMの家族歴がない患者群での発症でさらに以下を満たす場合;
  ● 高齢者(65歳以上)で発症したDM, 
  ● もともと肥満ではない(BMI<25)患者で発症したDM,
  ● 体重減少を認める患者
 ◯ ただし, 55歳以上の発症ならば膵癌のリスクがあるため, 精査してもよい.
 ◯ 膵癌スクリーニングはDM診断時のみではなく, 2-3年間の定期的なフォローが必要.
  フォローは癌マーカー ± 画像検査が推奨される.