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2014年3月24日月曜日

市販薬による中毒症: ジフェンヒドラミン中毒

市販薬による中毒症 (Intoxication by OTC drugs)
ジフェンヒドラミン中毒 (Diphenhydramine)

症例報告: 22歳男性, 痙攣
 全身性の痙攣と意識障害で搬送.
 BT36.6度, BP 142/90mmHg, HR 153bpm. 
 瞳孔は散大し, 対光反射は鈍い. 眼クローヌス(+).
 Labでは, WBC 22900/µLと高値, AG開大性アシドーシスがあるのみ.
 TriageではTCA, ベンゾ等すべて陰性. 
 CSF, 頭部MRIも問題無し.

 抗てんかん薬で治療し, 翌日には眼クローヌス消失. 
 病歴聴取にて3.3gのDiphenhydramineを内服したと白状.
 DPHの血中濃度 2.61µg/mL (健常人で50mg内服すると82.2±31.5ng/mL)

Diphenhydramine; 抗ヒスタミン薬(第一世代)
 OTC薬では眠剤のドリエル®ドリエル1錠あたり50mgのDiphenhydramineを含む.
 他には酔い止め(トラベルミン®)やレスタミン®に含有される. 

 抗コリン作用セロトニン再取り込み阻害作用を示す.

 また, リドカインや他のClass I抗不整脈薬と同じ様なNa-ch阻害作用を示し, 徐脈, 低血圧, Wide QRS来す. IK1も阻害し, QT延長を来す
 ( IK1チャネルの異常はLong QT Syndrome type 2と同じチャネル異常)
(Am J Cardiol 1997;80:1168–1173)
(The American Journal of Forensic Medicine and Pathology 1998;19:143-147)

抗コリン中毒症状とセトロニン中毒症状 (NEJM 2005;352:1112-20)

薬物
時間
バイタル
瞳孔
粘膜
皮膚
腸蠕動
神経筋緊張
反射
精神
セトロニン
症候群
セトロニン
前駆体
<12h
BP↑, RR↑,
BT >41.1
散大
唾液
分泌
発汗
亢進
亢進
特に下腿
反射亢進
クローヌス
興奮 昏睡
抗コリン
中毒
抗コリン薬
<12h
BP↑, RR↑,
BT <38.8
散大
乾燥
発赤, 熱感
乾燥
低下
 
~消失
正常
正常
興奮 せん妄


抗コリン中毒症状とセトロニン症候群の症状が混在する.
それに加えて心電図変化, 不整脈リスクがあるのがDPH中毒
 抗コリン作用の方が強いので, 皮膚や粘膜は乾燥気味, 
 また腸管蠕動は抑制されることが多い. 
 瞳孔は散大する.
 発熱はあるが<38.8度程度.
 それに加えてセロトニン症状であるクローヌスや下肢トーヌスの亢進, 痙攣を認める

DHP単独の中毒症 282例の解析(Retrospective 232, Prospective 50) (Human & Experimental Toxicology (2000) 19, 489-495)
 症状の重症度と内服量
 心電図変化は1.3g[0.4-3.0]で出現. 痙攣は2.0g[1.0-2.7]で出現.

中毒量と症状の関係

<1gではほぼ神経症状は無いが, 1gを超えると痙攣や精神症が増加してくる.
<1gでは傾眠, 抗コリン症状が主. 増加してくると痙攣や昏睡, せん妄が増加. 頻脈やECG変化も増加してくる.

眼クローヌス(Opsoclonus)について
 注視状態でも様々な方向へ急速に眼位が偏倚する病態.
 Viral Infection後の自己免疫機序, 傍腫瘍症候群の脳症で認められる.
 中毒でも認められる報告があり, 有機リン, リチウム, Cetirizine, アミトリプチリン, コカイン, そしてジフェンヒドラミン中毒での報告がある.
(N Engl J Med 2010;363:e40) (European Neurology; 2005;53:46)

DPH中毒 126例の心電図所見の評価 (Am J Cardiol 1997;80:1168–1173)
 平均年齢26±11歳, 女性が80%. 大半が>500mgを内服.
 健常Control 77例と各パラメータを比較
 平均HRは103±25 bpm. QTcは有意に延長し, T波高は低下.

痙攣合併の有無, 意識障害の有無で比較すると
上記神経障害合併例の方がより大量服薬しており, 頻脈, QTc延長も高度となる.

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たかが抗ヒスタミン, されど抗ヒスタミン.
手に入りやすく, 一見対したことなさそうだが, 中枢神経症状, 不整脈と多彩な病状をとるため, 注意が必要な中毒症と言えるでしょう.