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2014年5月30日金曜日

女性化乳房 Gynecomastia

女性化乳房, Gynecomastia
(Am Fam Physician. 2012;85(7):716-722). (Sao Paulo Med J. 2012; 130(3):187-97) (Southern Medical Journal 2014;107:44-49)
成人男性の乳房にも脂肪組織, 腺組織は少量含まれており, EstrogenやProgesterone値が上昇すれば組織肥大を生じ得る.
 反対にAndrogenが上昇すると乳腺は萎縮.
 Prolactinも関与する
Gynecomastia:女性化乳房はPhysiologicとnonphysiologicに分類され, Estrogen-to-testosterone ratioが破綻すると生じる病態.
 無症状で, 一般診察で発見される事が多い. 一部では乳房痛, 乳癌が心配で来院することもある.

Estrogen/Androgen不均衡は
 精巣や副腎でのFree estrogen分泌の増加,
 腺外でのEstrogen前駆体の芳香化,
 Estrogen代謝の低下,
 Estrogen類似物質の暴露
 Estrogenの摂取(薬剤)
 Sex hormone-binding globulin(SHBG)と結合し, Estrogenの遊離を促進する物質(薬剤).

 精巣でのAndrogen分泌の低下
 SHBGの増加によるAndrogen結合の増加,
 Androgen代謝の亢進
 薬剤によるAndrogen受容体からの解離促進 の機序がある.

女性化乳房にはPhysiologic/nonphysiologicに大きく分類
Physiologic Gynecomastia: 生理的女性化乳房

 新生児, 10台, >50歳の成人の3峰性ピークをとる.
 Neuborn gynecomastia, Adolescent gynecomastia, Elderly Gynecomastia

新生児の90%は胎盤を通過したEstrogenによる乳腺肥大を触知する.
 大半が4週間以内に消失する経過だが, 
 1歳を超えても認める場合は精査が必要. 
 持続性の思春期女性化乳房のリスクとなる.
10台男性の1/2で女性化乳房を自覚. 典型例では13-14歳で多い.
 Estradiol濃度が上昇, Free testosterone産生の遅延, 
 組織のホルモン感受性の亢進が原因. 自然に改善する.
>50歳のPhysiologic GynecomastiaはFree testosteroneが低下することで生じる.
 50-80歳の入院患者の調査では, 65%で様々な程度のGynecomastiaを認めた.

Nonphysiologic Gynecomastia: 非生理的女性化乳房
 疾患, 薬剤に伴い生じる女性化乳房. どの年齢でも生じ得る.
Physiologic
25%
腫瘍
3%
特発性, 原因不明
25%
Adrenal tumor

薬剤性
10-25%
hCG産生胃癌

肝硬変
8%
hCG産生肺大細胞癌

Primary hypogonadism
8%
下垂体腫瘍

5α-reductase deficiency

hCG産生腎癌

Androgen insensitivity syndrome

精巣腫瘍

Congenital anorchia

二次性Hypogonadism
2%
Hemochromatosis

Kallmann syndrome

Klinefelter syndrome

Hyperthyrodism
2%
Testicular trauma

慢性腎不全
1%
Viral orchitis

その他
6%


家族性女性化乳房



HIV



低栄養, 吸収不良


女性化乳房を来す薬剤一覧

抗アンドロゲン作用
エストロゲン作用
Alkylating agent, Bicalutamide(カソデックス),
シメチジン, シスプラチン, Flutamide,
イソニアジド, ケトコナゾール, マリワナ,
MTX,
メトロニダゾール, オメプラゾール,
ペニシラミン, ラニチジン, スピロノラクトン,
Vinca alkaloids
ステロイド, ジアゼパム, ジゴキシン,
Estrogen agonist,
エストロゲン,
Gonadotropin-releasing hormone agonist,
Human chorionic gonadotropins,
フェニトイン, Phytoestrogens
アンドロゲン代謝の亢進
性ホルモン結合グロブリン濃度上昇
アルコール
ジアゼパム, フェニトイン
抗プロラクチン血症誘導
その他, 機序不明
ハロペリドール, メトクロプラミド,
フェノチアジン
アミオダロン, アムロジピン, アンフェタミン,
ACE
阻害薬, Antiretroviral agents,
アトルバスタチン, Didanosine, ジルチアゼム,
エトミデート, フェノフィブラート,
Finasteride,
フルオキセチン, ヘロイン,
Methadone,
メチルドパ, ミノサイクリン,
Minoxidil, Mirtazapine,
ニフェジピン, Nilutamide,
パロキセチン, Reserpine, リスペリドン,
ロスバスタチン, Sulindac, テオフィリン,
TCA, Venlafaxine,
ベラパミル
Persistent Pubertal Gynecomastia
 10台の生理的女性化乳房は6M~2Yで自然消失する.
 2年以上持続する例, 17歳以降でも持続する例では精査が必要.
 薬剤や原因疾患の精査で原因が判明しない場合を “Persistent Pubertal Gynecomastia”と呼び, 患者の希望(見た目, 精神的)でテストステロン療法や外科切除等を考慮
 薬剤性が最も多い原因. 他にはラベンダーやTea tree oil, dong quai, Tribulus terrestrisが関連あり. 大豆も通常摂取ならば問題ないが, 300mg/dを超える摂取例では女性化乳房の報告がある.

肝硬変: エストロゲンの代謝が障害され, 血中濃度が上昇
 また, 性ホルモン結合グロブリンの上昇で末梢のホルモン濃度が上昇するのが機序.

Primary Hypogonadism: 低ゴナドトロピン症の症状として, 女性化乳房のみ生じることがある.
 Persistent pubertal gynecomastiaを呈する事が多い.

腫瘍性: 精巣腫瘍の10%が女性化乳房のみで発見される.
 175例の女性化乳房で切除目的で外科紹介となった患者のうち, 3%で精巣腫瘍が認められた.
 Leydig cell tumorは良性腫瘍だが, Estradiolを分泌し, 原因となる.
 hCG産生腫瘍も原因となる: Testicular germ cell, 肝癌, 胃癌,  Bronchogenic Carcinoma等.

甲状腺機能亢進症: 10-40%で女性化乳房を認めるが, 大抵他の症状を伴う.
 甲状腺機能正常化で1-2ヶ月後には消失する.

慢性腎不全
 Testosterone産生が低下し, 尿毒症による直接的な精巣障害も加わる
 また低栄養状態も関連し, ~40%で女性化乳房を伴う.

その他の原因
 腸管での吸収が低下する病態: IBD, Cystic fibrosisで生じる.
 Refeedingでホルモン産生が活性化され,  女性化乳房が増悪する事もある.
 心不全や糖尿病, 結核も原因
 他の稀な原因としては, 精神的ストレス, フタル酸や鉛暴露, 機械的刺激等で生じる.
精査しても原因不明な “Idiopathic”が25-50%
 環境因子, 環境からの暴露の影響も考慮されている.

女性化乳房の診断
他の乳房肥大を伴う疾患の除外と原因精査が重要.
 年齢, 罹患期間 → 生理的女性化乳房の判断.
 乳腺の触診, 乳頭からの分泌物の有無, 圧痛の有無.
 皮膚の変化, 腫大の速度の評価.
 精巣腫瘍の評価
 消耗性症状の有無.
可動性のないMassは証明されるまで乳癌として扱う.

乳房に腫瘤, 肥大を来す疾患

頻度
所見
女性化乳房
63-93%
硬く, 円形の腫瘤で, 可動性良好.
乳輪下部にある. 通常両側性
Pseudogynecomastia
5.4%
腺組織ではなく, 脂肪組織が増加している.
乳癌
1.4-2.9%
乳頭からの血性分泌液, 腋窩リンパ節腫大,
無痛性の腫瘤, 通常片側性
脂肪腫
0.9-2.9%
無症候性の乳房の腫大
Sebaceous cyst
1.4-2%
病変部位よりドレナージされるものがある
腫脹部位はより皮膚に近い. 非対称性
乳腺炎
0.8-1.1%
感染徴候
脂肪壊死
0.3-0.9%
患部の外傷歴がある. 局所の腫脹.
非対称性の乳房腫大
Dermoid cyst
0.9%
無痛性の腫瘤. 乳房のどこにできてもよい
血腫
0.9%
外傷歴あり. 左右非対称
転移性病変
0.8%
腫瘍の病歴
Ductal ectasia
0.5%
非特異的乳房圧痛
Hamartoma
0.5%
固形のMass. 診断は病理で
Lyphoplastic inflammation
0.5%
病理で診断必要
Postsurgical changes
0.5%
外科手術の病歴

診断アルゴリズム (Am Fam Physician. 2012;85(7):716-722)
まず生理的女性化乳房を評価し, 非生理的ならば精巣腫瘍, 乳癌, Pseudogynecomastiaを評価.
上記否定的ならば慢性疾患, 甲状腺を評価し, 全て陰性ならばホルモン値を評価する流れ

診断アルゴリズム (Southern Medical Journal 2014;107:44-49)
先ず左右非対称 → 腫瘍性,
対称性 → 薬剤, 精巣腫瘍,  慢性疾患(肝硬変, 甲状腺等)

慢性疾患, 薬剤性が無い場合,
精巣腫瘍 → hCG, LH, estradiol
腫瘍(-) → testosterone, LHを評価

重症度を評価するGrading
女性化乳房の治療
女性化乳房で治療が必要なのは除痛目的とコスメティックの為.
 非生理的女性化乳房では基礎疾患, 原因疾患の治療が基本.
 生理的女性化乳房では経過観察で改善が見込める.
 220例の女性化乳房患者のうち, 治療が必要であったのは13例のみ.
 治療は10mg Tamoxifenを3ヶ月間投与で10/13が改善した.

Danazol; 抗ゴナドトロピン作用, 軽度のアンドロゲン作用.
 200-600mgの投与量でホルモンバランスを改善させ得る.
選択的Estrogen-R modulators: tamoxifen, raloxifen.
 Tamoxifen 40mg/d 2-4ヶ月で特発性女性化乳房の80%が改善.
 10-20mg/dでも効果が見込める.
 Raloxifenは60mg/dを投与.
 Danazolとの比較ではTamoxifenの方が効果が期待できる
外科的切除術も行われる事がある