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2014年7月30日水曜日

失神: ERでの対応

失神: ERでの対応. Syncope
失神診療のポイント
 ● 失神 ? or てんかん?
 ● 致命的な失神の可能性は? (心原性失神)

失神の頻度と, 除外が必要なもの
 てんかん 4.9%
 心原性失神 9.5%
 脳血管障害 4.1%
 起立性低血圧 9.4%
 薬剤性 6.8%
 神経介在性 21.1%
 その他 7.5%
 不明 36.6%

心原性失神のリスク因子は
 高齢者 心疾患の既往(心不全)
 失神感などの前駆症状 
⇒心原性の可能性を示唆
 労作性失神  ⇒ HOCM, 大動脈縮窄
 ACS, PEでも失神を来す.

失神 vs 痙攣, てんかん
671名の意識消失患者の評価 J Am Coll Cardiol 2002;40:142–8
 内539名で原因が判明. 痙攣は102名. 失神は437名.
 痙攣の可能性を上げる病歴は以下の通り;
Factors
Sn(%)
Sp(%)
LR
舌咬傷
45.1%
97.3%
16.46
Head turning
43.1%
96.8%
13.48
不自然な体位
35.3%
91.3%
12.88
失禁あり
23.5%
96.4%
6.45
発見時顔面蒼白
32.6%
94.4%
5.81
四肢の変な動き
68.6%
87.7%
5.57
発作前に振戦あり
29.4%
94.1%
4.95
発作前のpreoccupation
7.8%
98.2%
4.28
発作前の幻覚
7.8%
98.2%
4.28
Factors
Sn(%)
Sp(%)
LR
発作前, 時の健忘
52.9%
86.8%
4
ストレスによるLOC
56.9%
84.9%
3.77
筋肉痛
15.7%
95.4%
3.43
発作前のDeja vu
13.7%
95.9%
3.34
Observed unresponsiveness
76.5%
74.9%
3.05
発作後昏迷
94.1%
69%
3.03
発作後頭痛
49%
83.6%
2.98
発作前に気分変調あり
23.5%
91.8%
2.86
異常な行動の目撃
92.2%
67.1%
2.8
 痙攣の可能性を下げる病歴は以下の通り;
Factors
Sn(%)
Sp(%)
LR
Presyncopal spell
27.5%
27.4%
0.39
高血圧の訴え
9.8%
69%
0.32
暖かい, 寒い環境でのPresyncope
7.8%
73.1%
0.29
針刺し時にPresyncope
3.9%
86%
0.29
前駆症状としてのめまい
5.9%
78.5%
0.27
Any presyncope
23.5%
13.7%
0.27
高血圧あり
7.8%
71.2%
0.27
発作前に温感あり
7.8%
66.2%
0.23
Any chest pain
9.8%
54.3%
0.22
発作前に悪心あり
5.9%
72.2%
0.21
意識消失を覚えている
11.8%
42.5%
0.2
座位, 立位時にPresyncopeあり
5.9%
67.6%
0.18
発作前に発汗あり
5.9%
65.3%
0.17
発作前に胸痛あり
2%
87.2%
0.15
意識消失前に動悸あり
3.9%
66.2%
0.12
Factors
Sn(%)
Sp(%)
LR
意識消失前に呼吸苦あり
2%
74.9%
0.08
冠動脈疾患あり
2%
74.9%
0.08
長時間の座位, 立位時のLOC
2%
60.3%
0.05
失神 vs 痙攣, てんかん: スコアによる評価 The Lancet Neuro. 2006;5:171-180

Pt
舌咬傷(+)
2
Déjà vu or Jamais vu
1
意識消失に関連した精神的ストレス
1
発作中の頭部の回転運動
1
非同調的, 不自然な姿勢, 四肢の運動, 発作の健忘
1
発作後の混乱, 錯乱
1
浮動感の発作
-2
発作前の発汗(+)
-2
長時間の座位, 立位に付随した発作
-2
Score >=1 : Seizureを示唆, 
Score < 1 : Syncopeを示唆
SN94%, SP94%

失神の原因評価
脳血管障害の失神?
 TIAで失神を来すことはかなり稀, 少なくとも麻痺, 構音障害がメイン
 椎骨脳底動脈のTIAでは10%で意識障害となる (Arch Neurol 1989;46:281-4)
 SAHで失神を来すことがあるため、頭痛の評価は必要

起立性低血圧は必ず評価する
失神を来す薬剤の評価も忘れない(抗不整脈薬, 降圧薬, 利尿薬)

失神の評価
1st Stepとして, 12-ECG, 臥位, 立位時の血圧測定
 これにより66%が初期診断が可能. 正確性は88%
 同時に心原性のRisk評価も重要. (性別, 年齢, 既往歴, 喫煙, 肥満, アルコール, 家族歴などなど)
 心原性っぽくなければ, 状況を評価し, NMSを評価.

臥位, 立位時のバイタルサインの評価
Technique
10分間臥位を維持し, BaselineBP, HRを測定
患者を立位にして3分後にBP, HRを測定
その際に症状の有無も評価する
起立性Tachycardiaが疑われた場合は5分後にも再評価
Tilt table 60-70度で代用も可能
結果評価
sBP 20mmHg, dBP 10mmHg以上の低下は起立性低血圧
 立位後3分後以降も低血圧が持続する場合は要注意
 立位時に症状が再出現する場合は要注意
立位時にHR 30bpm以上上昇 or 120bpm以上となるのは起立性頻脈
起立時にHR上昇が認められない場合は自律神経障害, 薬剤, Chronotropic incompetenceが示唆

Red flags(心原性を示唆する情報)
 胸痛, 呼吸苦
 心疾患の既往
 突然死の家族歴
 ECG変化 (QT延長, Wide QRS, V1-3のNeg T, Brugada synなど)

年齢も重要であり, 高齢者では心原性の可能性は上昇する.


若年者の失神では心電図は必ずしも必要ではないかもしれない
477名のSyncope, Presyncope患者Prospective Cohort(単一施設)
 14日以内の心疾患が10%で認められたが, 来院時に心電図にて異常を認めたのは4%[2-6]のみ
 < 40yrで区切るとECGで異常を認めたのは0%[0-3]
 14日以内の心疾患に対する心電図検査のSn, Sp (Ann Emerg Med 2008;51:240-6)
ECG異常(+)
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
18-39yr(n=108)
50[1-99]
87[79-93]
3.8
0.6
40-59yr(n=99)
90[55-100]
88[79-94]
7.5
0.1
60-79yr(n=114)
71[42-92]
67[57-76]
2.2
0.4
>=80yr(n=109)
72[47-90]
60[50-71]
1.8
0.5
失神の予後を評価する
San Francisco Syncope Rule (SFSR)
SFSR; 5項目中1つ以上陽性
 来院時呼吸苦(+)
 来院時sBP <90mmHg
 Ht <30%
 心不全の既往(+)
 ECGにて異常あり
アウトカム
Reference
対象
Outcome
Sn(%)
Sp(%)
Ann Emerg Med. 2006;47:448-54
791
30日以内の致命的なイベント
98[89-100]
56[52-60]
Ann Emerg Med. 2007;49:420-7
592
7日以内の致命的なイベント
89[81-97]
42[37-48]
ER受診後に致命的なイベントを診断
69[46-92]
42[37-48]
Ann Emerg Med. 2008;51:585-90
1418
30日の全死亡
100[84-100]
51.9[51.8-52]
60日の全死亡
86[74-94]
52.4[52.1-52.7]
90日の全死亡
89[79-95]
53.1[52.7-53.4]
6Mの全死亡
89[79-95]
53[52-53]
1Yの全死亡
83[75-89]
54[53-55]
6MSyncope由来死亡
100[90-100]
52[52-53]
1YSyncope由来死亡
93[83-97]
53[52-53]
Reference
対象
Outcome
Sn(%)
Sp(%)
NPV
Ann Emerg Med
 2008;52:151-9
743
 
追跡97%
7日以内の
致命的疾患
74[61-84]
57[53-61]
96[93-98]
Am J Emerg Med
 2008;26:773-8
517
 >=65Y
7日以内の
致命的疾患
76.5[66.7-84.3]
36.8[32.2-41.6]
84[80.9-91.4]
Outcome; 7日以内の致命的疾患 (MI, 不整脈, PE, Stroke, SAH, 出血, 死亡)
SFSRが提唱された当初のStudyでは高感度であり, 致命的な失神の除外には非常に有用であるともてはやされたものの, 最近のStudyでは感度は70%台.
高齢者ではSFSR陰性でも完全に否定は困難である....

SFSRのMeta-analysis: CMAJ 2011;183:E1116-26
12 trials, N=5316名のMeta-analysis.
 その内11%(5-26%)でSerious outcomeあり.
 SFSRは感度87%[79-93], 特異度52%[43-62]でSerious outcomeを示唆する.

 偽陰性は5%で認められ, その原因の大半が心原性不整脈による失神.
  → SFSRを使用しても不整脈性の除外は非常に困難と言える.
 初回失神時に精査され, 問題ないと判断された群では, SFSRによる偽陰性率は2%であり, 従って, SFSRは初回失神時に精査され, 問題ない患者群で用いるべき指標と言える.

ACEPの入院基準
American College of Emergency Physicians(ACEP)
Level B Recommendation  
 ①心不全, PVC(>10回/hr, >=2連発, Multifocal)の既往(+)
 ②胸痛など, ACSに合致する症状
 ③心不全, 弁膜症を示唆する身体所見
 ④虚血, 不整脈, QT延長, 脚ブロックといったECG異常
Level C Recommendation  
 ①年齢 > 60歳
 ②CAD, 先天性心疾患の既往
 ③突然死の家族歴
 ④若年者の運動時失神, 明らかな異常がないもの
Recommendationと重大なアウトカムに対する感度, 特異度
ACEP recommendation
Sn(%)
Sp(%)
入院率
Level Bのみ
100[86-100]
81[75-87]
28.5[22-35]
Level B + C
100[86-100]
33[26-40]
71[64-77]
(Am Heart J 2005;826-31) >18Y, N=200, Dizziness, Vertigo, Light-headednessなどは除かれる

EGSYS score Heart 2008;94:1620–1626
原因不明の失神を来した516名のProspective study.
 52項目を評価し, 260名のCohortで予測スコアを作成, 256名のCohortでValidationを施行.
 Outcomeは不整脈性の失神.
  European Society of Cardiologyで推奨されている精査にて評価.
 NMS 67%, 起立性低血圧 10%, 不整脈 11%, 心疾患 4%, 不明 3%.
EGSYS score

OR
Score
失神の前に動悸あり
64.8[8.9-469.8]
4
心疾患の既往, ECG異常
11.8[7.7-423]
3
運動時の失神
17.0[4.1-72.2]
3
臥位時の失神
7.6[1.7-33.0]
2
失神前に切っ掛けがある*
0.3[0.1-0.8]
-1
自律神経系の前駆症状
0.4[0.2-0.9]
-1
*暑く, 込んでいる場所, 長期間の立位, 恐怖, 疼痛, 感情, 
† 悪心, 嘔吐 
Cutoff
感度(%)
特異度(%)
LR(+)
LR(-)
≥3
92[76.9-98.2]
69[62.7-75.2]
2.97[2.40-3.25]
0.12[0.04-0.32]
>4
29[14.6-46.3]
99[96.1-99.7]
21.0[6.67-69.13]
0.72[0.66-0.83]
2yrのフォローにおいて,
≥3pt群の死亡率は17-21%と高値.
<3pt群では2-3%のみ.

60歳以上の失神における, 重大なアウトカムの予測
Syncope, Near-syncopeを主訴にERを受診した>=60yrの患者 Ann Emerg Med 2009;54:769-78
 3727名を評価し, 原因が不明な2584名を調査.
 173名(7%)が30日以内にSerious conditionを診断されている.
 124名は入院中に判明, 26名は入院するも, 退院. その後に判明. 又, 23名はERより帰宅するが, 後に判明し, 入院となった.
30d serious eventの予測因子
Variable
OR
Variable
OR
年齢>90yr
2.3[1.2-4.4]
sBP<90
1.6[0.9-2.6]
男性
1.8[1.3-2.6]
sBP>160
1.6[1.1-2.4]
Near syncope
0.5[0.3-0.8]
HR>100
1.6[0.9-2.8]
EF<40%
2.0[0.8-5.0]
Major Trauma
1.8[0.8-4.2]
不整脈の既往歴
2.4[1.6-3.6]
ECG異常
1.9[1.3-2.8]
胸痛あり
1.6[0.9-2.8]
Trop I異常
1.9[1.2-2.9]
呼吸苦あり
1.5[0.8-2.6]



30d serious event Risk Score
Presence of
Pt
年齢>90yr
+1
男性
+1
不整脈既往
+1
sBP>160
+1
臨床的意義のあるECG異常
+1
Trop I異常
+1
Near-syncope
-1

ED Observation Syncope Protocol vs Routine Hospitalization
50歳以上の失神患者でIntermediate risk群*を対象としたRCT Ann Emerg Med. 2014;64:167-175.
 上記を満たす124例を, EDで経過観察する群, ルーチンで入院管理する群に割り付け, 予後, 費用を比較.
経過観察群は 最低12hのECGモニタリング, 6h毎のトロポニン評価, 心雑音(+)群では心エコー. 最大でも24h以内に帰宅.

アウトカム
入院率, 期間, コストは有意にObservation群で低い.
重大なアウトカムは両者有意差無し.
この場合のObservationは一泊入院程度と捉えておくと分かりやすい.

迷走神経性失神の診断 European Heart Journal (2006) 27, 344–350
心疾患(-)の失神患者418名の評価.

 原因が判明したのは323名で, 迷走神経性失神は235例. 
各項目の感度, 特異度


迷走神経性失神診断スコア
Factor
pt
二束ブロック, 心静止, SVT, DM≥1項目
-5
発見時顔面蒼白
-4
初回発作が35歳以上
-3
発作時に何かしら覚えている
-2
長時間の座位, 立位時の(pre)syncope
1
発作前に発汗, 温感あり
2
疼痛, 医療行為中の(pre)syncope
3
 ≥-2でSn89%, Sp91%で迷走神経性を示唆する.

迷走神経性 vs 心室細動による失神の比較 J Cardiovasc Electrophysiol, Vol. 21, pp. 1358-1364, December 2010
134名の失神+心疾患(+) 患者のProspective cohort
 21名がtilt-positive VVS(vasovagal syncope), 78名がVT, 35名が原因不明の失神.
 VTの可能性を上げる要素を評価し, スコアを作成.
Factor
pt
初発年齢が35歳以上
3
男性
1
長時間の座位, 立位での(pre)syncope
-1
再発性の頭痛
-2
ストレス時のpresyncope
-2
syncope後に1分以上持続する倦怠感
-2
≥1ptはVTを強く示唆し <1ptはVVSを示唆する.

失神: 入院後
心疾患の評価
 Holter ECGが重要であるが, 24hrの検査で15%の不整脈を検知
 48hrとすれば, 初回陰性の内11%, 72hrならばさらに4.2%検知
 
⇒ Holter ECG + Monitor ECGによる継続モニタリングが良い
 他, 心エコー, トレッドミル, 12-ECGフォロー
 最終的にはEPの適応について検討を
Tilt試験は神経介在性失神の評価に有用
 初期評価にて原因不明の失神の内, 50-66%がTiltで陽性
 感度 26-80%, 特異度 90%, 若年では偽陽性が認められる
 >40歳で失神による交通事故(+), 5回/yearの神経介在性失神ではペースメーカーの適応となるため、Tiltを行うべき

来院時ECG正常, 心疾患(-)群でも不整脈の可能性は高い Circulation. 2001;104:1261-1267
 過去2年間で3回以上の失神発作を来した患者群の評価.
 ECG, 心臓形態評価, Holter ECGでは問題無かった111名.
 内82名がTilt-testで陰性, 29名がTilt-testで陽性.
 平均年齢63-4歳±15-17.
 埋め込み型Loop recorderにて心電図を継続的に評価.
フォローにて30%程度でSyncope(+).
その内半数で洞停止を認めている. (Tilt試験の結果で有意差無し.)
Tilt試験は不整脈リスクを予測できるわけではなく, 感度が不十分と言える

伝導障害(+)のSyncope例のフォロー Circulation 2001;104;2045-2050
BBB or QRS>100msを満たすSyncope例52名に埋め込み型Loop recorderを留置し, 3-15moフォロー.
 2度, 3度房室ブロックは除外.
 Electrophysiological study, 他の失神検査は全て陰性の症例.
 平均年齢71±8yr. 男性83%. 過去2年間で2回以上の失神発作あり.
 48日間以内にSyncopeを来したのは19名.
 内17名が完全AVB(12) or 洞停止(5)を認めており, 2名がSinus Rhythm.
 AVB出現 or NOTで基礎のECG, 年齢, 心臓評価に有意差無し.
 初期での評価は困難と言わざるを得ない.