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2015年6月11日木曜日

脳梗塞の急性期治療: 血管内治療

脳梗塞: 血管内治療
Lancet Neurol 2007; 6: 1086–93

ICAやMCAのようなLarge vesselの梗塞に対するカテーテル治療が近年増加している.
 このようなタイプの脳梗塞ではt-PAの効果はやや劣る傾向があり, 血管内治療が期待される.(再灌流率0-33%)
 血管内治療には局所的血栓融解, ステント留置, 血栓除去がある.
局所的血栓融解
 カテーテルを使用し, 閉塞部位直前でt-PAを投与する方法.

 PROACT II study; MCA梗塞発症6hr以内の症例に対して, カテーテルを使用し, pro-urokinase 6mg vs Placeboに割り付け比較 (生食に溶解し, 30ml/hで2時間投与).
両群ともUFHは投与(2000IU bolus, 500IU/h)
  >> 再灌流率は66% vs 18%とカテーテル治療群で有意に良好.
  >> mRS≤2は40% vs 25%とこれもカテーテル群で良好.
 EMS trial; N=35で, 動脈内t-PA投与 ± IV t-PAを試行.
 再灌流率は良好であったが, 神経学的予後は有意差無し.
 動脈内t-PA群ので有意に症候性出血合併率, 死亡率が高かった
 IMS I, II trial; t-PA 0.6mg/kg投与後, 動脈内t-PA ≤22mgを使用.
 脳出血リスクはNINDS trialと同等(6.6~9.9% vs 6.4%)で, 死亡率もNINDSと同等(16% vs 21-24%).
 RCTではなく, 神経学的予後や具体的な比較は困難. 
 RCTであるIMS IIIでは血管内治療の有効性は認められなかった.

発症3hr以内の脳梗塞(動脈閉塞)に対して, Phase 1(2002-7)ではt-PA投与のみ, Phase 2(2007-8)ではt-PA投与+血管内治療を行い, 結果を比較 (Lancet Neurol 2009;8:802-9)
 Phase 2では, t-PA IV 0.6mg/kg施行後, 動脈内にカテ留置し, 閉塞を評価.
 閉塞が残存していれば, t-PA IA 0.3mg/kg施行.
 それでも閉塞が残存していれば, Angioplastyを施行.
Outcome IV(n=107) IV-IA(n=53) RR
Recanalisation 52% 87% 1.49[1.21-1.84]
NIHSS 0-1 or >4pt低下@24hr 39% 60% 1.36[0.97-1.91]
mRS 0-2@90d 44% 57% 1.16[0.85-1.58]
死亡率@90d 17% 17% 1.06[0.51-2.20]
全出血性副作用 37% 28% 0.93[0.56-1.56]
症候性出血 11% 9% 1.12[0.44-2.89]
 頸動脈閉塞, 非頸動脈閉塞群双方でIV-IAがRecanalisation率が良好との結果であったが
mRSは有意差がなかった.

デバイスによる血栓除去
MERCI; コイル状のワイヤーで血栓を掻き取るデバイス.
 根元の部分はバルーンで, 一度血流を遮断し, 小血栓が末梢に飛ばない様な工夫がある.
Multi MERCI trial; 発症8h以内のLarge vessel stroke 168名のProspective trial. 
Stroke. 2008;39:1205-1212
 MERCIとL5 Retriever(131例)を使用.
 このデバイスによる再灌流率は57.3%, 動脈内t-PAに追加して行った場合は69.5%の再灌流率であった.

Merci retrieval systemのまとめ Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S126–S134
 再灌流率は63.6%, 90日でのmRS≤2達成率は32%.
 症候性頭蓋内出血は7.3%, 合併症が6.3%.

他のデバイスとの比較
Solitaire; ネット状のワイヤーで血栓を除去するデバイス.
SWIFT trial; Solitaire flow restoration device vs Merci Retriever Lancet 2012; 380: 1241–49
 NIHSS 8-30, t-PA非適応もしくは効果の乏しい血管内治療の適応となる発症8hr以内の脳梗塞例 113例のRCT.
 Solitaire vs Merciに割り付け, 両群で神経予後を比較.

Solitaire Merci OR
再灌流(+), 脳出血(-) 61% 24% 4.87[2.14-11.10]
90d神経学的予後良好 58% 33% 2.78[1.25-6.22]
90d 自立達成 36% 29% 1.39[0.61-3.18]
90d mRS 3[1-4] 4[2-6] p=0.035
90d ADL(Barthel index) 70[15-100] 22.5[0-100] p=0.054
90d NIHSS 4.5[1.0-12.5] 30.0[2.0-42.0] p=0.007
Solitaireの方が再灌流率, 神経学的予後が良好であった.

Trevo; 血栓内部を一旦通過させ、ネット状のワイヤーを拡張させることでまず血流を確保し、後に起始部のバルーンを拡張させ、最終的に血栓を回収、残存血栓を吸引する道具,
TREVO 2; Trevo vs Merci Lancet 2012; 380: 1231–40
 発症≤8hのLarge vessel stroke 178名のRCT.
 患者は18-85y, NIHSS 8-29.
 アウトカム; Trevoの方が再灌流達成が良好.

Trevo Merci OR
TICI≥2 再還流達成 86% 60% 4.22[1.92-9.69]
TICI 0 8% 17% 0.44[0.14-1.22]
TICI 1 2% 20% 0.09[0.01-0.42]
TICI 2a 22% 20% 1.12[0.51-2.47]
TICI 2b 54% 38% 1.93[1.02-3.68]
TICI 3 14% 6% 2.68[0.83-10.13]
90d mRS 0-2達成 40% 22% 2.39[1.16-4.95]
脳梗塞発症時間と血管内治療の効果
発症3h以内
IMS III trial; 発症3h以内でt-PA治療施行した脳梗塞患者のRCT. N Engl J Med 2013;368:893-903.
 t-PA+血管内治療群 vs t-PAのみの治療群に2:1で割り付け, 比較.
 アウトカムは90日におけるmRS≤2 (機能的自立達成)
 StudyはN=656の時点で両者に有意差を認めない為に中止.
アウトカム; 

 神経学的予後, 脳出血合併率, 死亡率は両者で有意差無し.
 Subgroup解析でも特に有意差を認める項目は無し.
 合併症は血管内治療群で無症候性脳出血(27.4% vs 18.9%)とくも膜下出血(11.5% vs 5.8%)のリスクが有意に上昇した。

発症4.5h以内
SYNTHESIS trial; 発症4.5時間以内の脳梗塞362例のRCT N Engl J Med 2013;368:904-13
 血管内治療群(経動脈t-PA, 血栓除去術, その組み合わせ) vs. 経静脈t-PA群に割り付け, 3ヶ月後の神経予後を比較.
 母集団; 平均年齢66-67歳, NIHSS 13[9-18]
 心原性塞栓 32-34%, 解離 2-8%, 小血管病 7%. 前方循環 88-94%, 後方循環6-10%.
アウトカム; 3mo後の神経予後は両者で有意差無し.
脳出血, 死亡率も両者で有意差なし.

EXTEND-IA trial
発症4.5h以内の脳梗塞でt−PAの適応となる症例を対象としたRCT.
(Endovascular Therapy for Ischemic Stroke with Perfusion-Imaging Selection. N Engl J Med 2015.)
 t−PA投与に加えて血管内治療群 vs t−PA単独群に割りつけ, 再灌流率, 神経予後を比較.
 患者はCTAにてICA, MCAの閉塞を認める群で, 発症4.5h以内の脳梗塞
 CT perfusionでペナンブラ部位(造影ピークまで6秒以上遅延する部位)と不可逆性の部位(Ischemic core: 脳血流が30%未満)を評価した.
 血管内治療は発症6h以内に施行し, 8h以内に終了できるように調節.

StudyはN=70の時点で血管内治療群で有意に予後改善を認めたため中断
母集団の
発症から受診までの時間は80分[56-115], 78分[54-112]
Ischemic coreは19.6±17.4ml, 18.9±18.5ml
Perfusion-lesionは116±48ml, 105±39ml

CT perfusionにおいてペナンブラが明らかであれば発症<4.5hでもt−PA+血管内治療を併用するほうが予後は良い.

SWIFT PRIME trial: t−PA静脈投与の適応となる発症<4.5hの脳梗塞患者を対象としたRCT.
(N Engl J Med 2015;372:2285-95.)
 t−PA投与のみの群 vs 血栓除去術施行群に割つけ, 比較
 血栓除去はstent retrieverを使用.
 カテーテル治療は発症後6時間以内に施行.
 患者はICA, MCA M1の閉塞で, large Ischemic−coreを認めない症例*

*画像所見によるExclusion criteria
 CT, MRIで出血(+)
 CT, MRIで頭蓋内腫瘍あり
 CT, MRIでCNS血管炎所見あり
 CTの低吸収域, MRIの高信号域がMCA領域の1/3を超える
 初期の単純CT, MRI-DWIで中/広範囲の梗塞巣を認める(ASPECTS<6)
 脳底動脈閉塞所見, PCA閉塞所見あり
 治療者がカテーテル治療が不適切と思うような画像所見.

StudyはN=196の時点で有意差が出たため終了.
血管内治療による再灌流までは252分
血管内治療併用群では有意に神経予後改善効果が認められた
Sub解析ではASPECTS 8-10で有意に予後改善効果が認められている。

発症6h以内
MR CLEAN trial: 前方循環の近位部の梗塞で, 発症6時間以内に血管内治療が可能な患者500例を対象 A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke. NEJM 2015 
 近位部とは内頸動脈遠位部, M1,M2,A1,A2の閉塞がCT angio, MRA, 血管造影で証明されるもの.
 通常治療 + 血管内治療 vs 通常治療のみの群に割り付け, 90日後のmRSを比較した.
 通常治療にはt−PA, Urokinaseも含まれる.
 血管内治療は動注療法, 血栓除去, 吸引. 施設の方法となる.
 患者の平均年齢は65.7歳, NHISSは中央値17-18程度.
 t−PAを使用したのは86%, 投与までの時間の中央値は86分であった.
アウトカム
 90日後のmRSは血管内治療群で有意に改善あり
 mRS 0−3, NIHSS改善効果も血管内治療群で良好となる.
 画像所見でも閉塞所見や脳梗塞範囲の改善効果が見込める
 また, 合併症は両者で有意差なかった.

発症8h以内
MR RESCUE trial; 発症8h以内の前方循環, 大血管性の脳梗塞患者118名を, 血管内治療 vs 通常の治療に割り付け N Engl J Med 2013;368:914-23.
 また, MRI, CT所見において, “favorable penumbral pattern”, “non-penumbral pattern”の2つに分類し, 各群で割り付けた.
 favorable penumbral pattern; 予測梗塞コアが≤90mlで, 予測梗塞組織が梗塞リスク領域の70%以下で定義.
アウトカム; mRS≤2を予後良好と判断.
 58%がfavorable penumbral patternと判断.
 両群で神経学的予後は有意差無し.
 penumbral pattern, non-penumbral別の評価でも特に予後は変わらない. >> 画像検査結果で適応は決められない.

REVASCAT trial: 発症8時間以内の脳梗塞患者を対象として内科治療(t−PAを含む) + 血管内治療 vs 内科治療のみで比較 (N Engl J Med 2015;372:2296-306.)
 脳梗塞は前方循環系の近位部の閉塞で, 画像検査で広範囲の梗塞巣が認められない症例.
 発症<4.5hではt−PAを使用し, 投与30分後で再灌流を得られない症例
 それ以外に発症<8hのt−PAの適応とならない症例を対象とした.
 除外項目はASPECTS<7(単純CT), <6(MRI)は除外

 160例導入後は85歳まで範囲を拡大し,ASPECTS <8を除外項目に変更.

アウトカム: 神経予後は血管内治療群で有意に改善.
Sub解析ではASPECTS>8で有意に神経予後が改善しており、
SWIFT PRIMEを合わせてASPECTSを一つの判定基準とすることもありかもしれない。

血管内治療 vs t−PA療法のMeta-analysis Mayo Clin Proc. 2013;88(10):1056-1065
5 RCTs, N= 1197 (MR CLEANは含まれていない)
血管内治療群 vs IV−tPAの比較ではmRS, 死亡率, 頭蓋内出血に有意差なし

Sub-analysisでは, 発症6h以内, 以降別でも有意差無し.
NIHSS≥20の重症例でのみ血管内治療で予後が改善する可能性があるが, それを示唆するStudyは1つのみ.
また, 5 RCTsのみであり, Biasも強いと考えられる.

デバイス間の比較のStudyではほとんどが適応を8h以内で行っており、再灌流率も良好であることを考えると、発症8h以内で血管内治療が効果的である可能性が高いか。
またMR CLEANを含めてMetaすれば6h以内では有意差が出るであろう。
まとめると
3h以内ではt−PAと変わらず、出血リスクが上昇する
4.5h以内ではt−PAと同等 ただし、CT perfusionの結果次第で血管内治療併用がより効果的な可能性がある。適応基準は不明。
6h以内では効果的
8h以内では多分効果的 という感じ。

12h以内を対象としたESCAPE trialが発表されたが、そもそもの患者が4.5h以内が大半をしめるため、それで12h以内が効果あるというのはできそうもない。
(Randomized Assessment of Rapid Endovascular Treatment of Ischemic Stroke. N Engl J Med 2015)

血管内治療適応アルゴリズム Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S243–S255
これと、さらにEXTEND-IAの結果から
 発症<4.5hではIV t−PAを行う. CT perfusionにおいてペナンブラを認める場合、t−PA適応がない場合は血管内治療を考慮
 t−PA治療を行い, 再灌流が認められない場合は血管内治療を考慮
 発症4.5-8時間ではt−PA適応はないため、血管内治療を考慮する
 発症8時間以降では非侵襲的検査を行い、大血管閉塞が認めらた場合に血管内治療を考慮する。ただし8時間を超えておこなう場合のエビデンスは乏しく、主に後方循環での報告となる。

血管内治療の適応クライテリア Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S243–S255
適応項目
, 大血管閉塞による症状
経カテーテル線溶療法は
発症から6hr以内に施行可能
Deviceによる血栓除去術は
発症から8hr以内に施行可能(前方循環)
Deviceによる血栓除去術は
発症から12hr以内に施行可能(後方)
発症6-8hrを超える症例では,
他の画像所見で適応を決める
Potentially disabling neurologic deficit
IV t-PA投与後も症状増悪する症例
除外項目
血管狭窄で手技が困難
大動脈解離が疑われる場合
sBP>185,dBP>110でコントロール不能
PLT<3
ワーファリン使用し, INR>3.0
出血素因がある場合
血糖<50mg/dL
痙攣による麻痺が疑われる場合
画像所見において,
 Midline shiftを伴うMass effectあり
 頭蓋内出血
 亜急性で, MCA領域1/3 or >100ccの梗塞を伴う
 脳腫瘍, 膿瘍, 血管奇形, 瘤などでは線溶療法禁忌
 小さな動脈瘤や良性腫瘍ならば血栓除去は可能
相対禁忌
3mo以内の脳, 脊椎手術, 頭部外傷, 他部位の脳梗塞
頭蓋内出血の既往歴
ターミナル期
妊婦(リスク vs ベネフィットを考慮すべき)
亜急性のIE ± Mycotic aneurysm, stroke
dabigatran使用中の患者
IV t-PA後の血栓除去術の相対禁忌
血糖 >400mg/dL, 頭蓋内出血リスクを考慮して行う
血液透析患者も出血リスクが上昇
血管内治療時のマネージメント Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S182–S191
血圧のコントロール
 sBP<185, dBP<110を目標に降圧. t-PAと同じ.
抗血小板薬は,
 t-PA投与例では24hr以内のアスピリンは頭蓋内出血リスクとなるため, 24hr以降の開始が推奨される. これは動脈内t-PAでも同様.
 Deviceによる血栓除去のみの場合は, 術後の画像検査にて出血がなければ即時開始することが推奨されている.
他のManagementは通常の脳梗塞と変わらない.

血管内治療時, 中の抗凝固療法 Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S174–S181
 決まったものは無し. カテーテル由来の血栓の予防効果,
 閉塞の解除効果が見込めるが, 頭蓋内出血のリスクが増加する
 各Studyでは以下のような対応が取られている.

血管内治療の合併症頻度 Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S192–S198