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2015年10月13日火曜日

抗生剤による痙攣/てんかん発作

数年前に経験した症例から
症例:  透析中の85歳男性; 主訴 意識障害
・認知症, DM, 腎不全あり, ○○病院入院中.
・転院6日前より発熱あり, Cefepime(マキシピーム®) 1g/dを連日投与.
・透析は(月), (水), (金), Abxは水曜日より開始された.
・金曜日の透析後より意識レベル低下, 見当識障害を認め, 同日夜に転院

ERにて
・電解質, Glu, TSH, ガス, LP所見正常. 頭部CT正常.
・Sepsisによる意識障害 or せん妄を疑われ, 入院.
・金, 土, 日と意識レベル変わらず, GCS E1V2M4.
・点滴やらコードやら引っ張りまくる. ナースの手をつかむ. 良く分からない行動をとる. 暴れる.
・(月)にMRI評価するも, 明らかな所見無し.

その後…
・(月)に鎮静しつつ透析を行い, 翌日評価したところ…
 意識レベル改善; GCS E4V5M6…
・さらに透析を継続し, 意識状態改善. 座位, 歩行可能, 食事摂取良好.
・入院1wk後には見当識も改善を認め, 10日目に退院となった.

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という症例。
結果的に敗血症らしい所見も乏しく, 透析患者に対するCefepimeによる非けいれん性てんかん(NCSE)と考えているが, 残念ながら脳波が評価できていない。

Cefepimeの中枢毒性について
Cefepimeの特徴
・Cefepimeは85%が腎代謝であり, CCr<10ml/minの患者では健常者と比較して半減期が5倍となる. (通常2.3hr ⇒ 13.5hr~22hr)
・透析での排泄速度は透析膜に依存し, 大体1.6~2.3hr
・脳血液関門の通過性が良好であり, CNS感染症での適応も多い
・中枢では, GABA阻害作用を示し(他のβ-Lactumと同様), 痙攣閾値を減少させることが分かっている.
(Nephrol Dial Transplant 2008;23:966-70. Hosp Pharm 2009;44:557-61, 574)

Cefepimeによる中枢神経症状は報告例は, ほぼ全てが腎障害(+), 透析患者における不適切なDose使用によるもの
・2001年10月~2004年2月まで福山城西病院でCFPMを使用したのは58例, 中枢神経症状を認めたのは5例(8.6%)
 その全例が透析患者であった (広島医学2004;57:553-5)
・少ないながら, 腎機能正常で通常のDoseを投与した症例でもNeurotoxicityを生じた症例報告もあるため, 注意は必要.
・症状は緩徐進行性の意識低下, 昏睡, 昏迷, 焦燥, 全失語, ミオクローヌス. 舞踏病様運動, てんかん発作, 非けいれん性てんかんなどが報告
・Cefepime開始 ~ 神経症状発症までの期間は1-16日
・Cefepimeの中止により, 神経所見は改善を認める.
(Nephrol Dial Transplant 2008;23:966-70. Hosp Pharm 2009;44:557-61, 574)

Cefepime 42例, Ceftazidime 12例のReview
・発症平均年齢はCefepimeで61±19yr, Ceftazidimeで65±13yr.
・1例を除き, 他全てに腎障害を認め, 25%が透析中の患者であった.
 Cefepime例の12%, Ceftazidime例の33%が急性腎不全合併患者.
・最も多い症状は混迷であり, 頻度はそれぞれ 93%, 91%.
・Myoclonusはそれぞれ29%, 50%. 痙攣はそれぞれ 14%, 8%の頻度であった.
・薬剤開始~発症までの期間は, 5d[4-10], 6.5[4-11]
・発症~診断までの期間は, 5d[4-6], 3d[2-4]
・症状持続期間は, 8d[5-10], 4d[4-6] 
・EEGパターンは3つに分けられ,Background activityの消失, θ, δ波, 三相波の出現を認める
 他にはNonconvulsive status epilepticus, Generalized seizure.
(Pharmacotherapy 2003;23:369-73)

CephalosporinによるNonconvulsive status epilepticus10例.
・全例で腎不全を合併しており, 薬剤開始後1-10d(5±2d)で発症.
・薬剤はCTRX 2例, CEZ 2例, Cefepime 6例.
・症状は昏迷, 焦燥感, 顔面, 四肢のミオクローヌス症状.
・脳波は徐波で1-2Hzの棘波を混入する.
 三相波様に見えるが, 厳密には肝性脳症の脳波とは異なる.
・全例が薬剤中止後7日以内に改善.
血中濃度との関連は不明.
(Am J Med. 2001; 111:115–119)

2009-2011年にICUにてCefepimeを3日以上投与した成人例100例のRetrospective review.
・平均年齢65.8y[12.7], 使用量は平均2.5g/d[2.0-3.5]
・投与期間は6日[4-10].
・腎障害は84例で認められた.
Cefepimeによる神経毒性は15例で認めた(15%).
・投与開始〜症状出現まで3日[1-7].
・症状は意識障害(13), ミオクローヌス(11), Disorientation(6), NCSE(1)
神経毒性は腎障害と, 腎障害に応じた投与量の調節が無い場合がリスクとなる
(Critical Care 2013, 17:R264)

抗生剤による痙攣/てんかんリスクをまとめたReview (Neurology® 2015;85:1332–1341)
抗生剤による痙攣, NCSEを報告した文献のReview.
・その全てがEvidence level Class III-IV.
・原因薬剤で多いのはβラクタム(主にIII, IV世代セフェム), キノロン, カルバペネム(主にイミペネム).

βラクタム: ペニシリン
・ペニシリンによるGABA阻害作用が痙攣誘発に関連している可能性. 
 ペニシリンGもしくはOxacillinのIV投与で痙攣を発症するリスクは0.32%
 その全てが高用量投与, もしくは腎不全患者で生じている.

βラクタム: PIPC/TAZ
・PIPC/TAZでも痙攣の報告はあり. ペニシリンと同じく, 痙攣リスクがある患者群で生じる(高用量, 腎不全).

βラクタム: セフェム系
・腎不全患者におけるセフェム系抗生剤も痙攣のリスクとなる.
 GABAA受容体阻害作用が関連する.
 脳組織, CSF中の抗生剤濃度と関連.
・強直間代性痙攣, 重積以外にNCSEも多い.
・腎不全以外にも低アルブミンもCSF中の薬剤濃度上昇に関連.
・CNS疾患がある患者でもリスクは上昇.
・原因薬剤はセファゾリンの他, III-IV世代(Cefotiam, Cefixime, Ceftriaxone, Ceftazidime)で報告が多い.

βラクタム: カルバペネム
・カルバペネムは血液脳関門の通過性が良いため, より中枢のGABAA受容体阻害作用が強い可能性がある.
・中枢への作用以外に, カルバペネムでは抗てんかん薬(VPA)の代謝への影響もある.
 元々てんかんがありVPAを使用中の患者ではそれでリスクが上昇する可能性も.

・メロペネムよりもイミペネムの方が痙攣リスクは高い.
 また, メロペネムよりセフェピムの方がリスクは高い (Int J Clin Pharm 2013;35:683–687) 
・イミペネムは他のカルバペネムよりも中枢のGABAA受容体の親和性が高い.
 1754例のイミペネム使用患者のうち, 痙攣は3%で認められ, その31%がイミペネムに関連した痙攣と評価 (大体1%).(Am J Med 1988;84:911–918.)
 その大半が頭蓋内疾患やその既往歴があった(奇形, 脳萎縮, Stroke, 脳挫傷, 腫瘍, MS, 低酸素脳症など)
・メロペネムにおける痙攣のリスクは0.07-0.1%程度.
 ドリペネムはGABAA受容体への親和性が低く, リスクも低い. (ドリペネム < PIPC/TAZ < イミペネム) (Curr Med Res Opin 2008;24:2113–2126. Crit Care Med 2008;36:1089–1096.)

キノロン系
・FQも特異的なGABAA受容体結合部位があり, 抑制に働く
・CPFXでせん妄や痙攣の報告がある.
・特にCNS疾患既往患者, 腎不全患者, テオフィリン併用患者で報告例あり
・LVFXやMOFX, Gatifloxacinでは報告例は少ない.

マクロライド系: エリスロマイシン, クラリスロマイシン
・CYP3A4阻害作用があり, カルバマゼピンの血中濃度上昇に関与
・カルバマゼピン中毒で痙攣, 痙攣重積がある.
・アジスロマイシンはCYP3A4阻害作用はなく, 痙攣リスクは低いと考えられている.

他の抗生剤
・イソニアジドは末梢神経障害, 精神症, 痙攣の原因となる.
 ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害し, pyridoxal 5’ phosphateが低下し, GABAの合成障害に関連する.
・リファンピシンはCYP2C9, CYP2C19, CYP3A4, glucuronidaseを誘導することで, 抗てんかん薬の代謝を促進させる.
・リネゾリドではComplex partial seizure, てんかん重積の報告があるが, 機序は不明.