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2015年12月4日金曜日

高リスクのIgA腎症に対する治療: STOP-IgAN

日本国内におけるIgA腎症の発症率は3.9-4.5/10万人年
20-30歳代に多いが, どの年代でも発症して良い.

ネフローゼ症候群や無症候性の血尿, 急性腎不全, 慢性腎不全など様々な症状となり,
経過も自然に改善する症例から、透析に移行する例まで様々である.

IgA腎症における, 末期腎不全(ESRD)の予測スコアが幾つかあり,
そのうち日本人患者2283例において, 10年後のESRDリスクを評価したStudyでは, 以下の要素が腎不全リスクとなる.
 男性例, <30歳発症例, 高血圧症例, 蛋白尿が高度の症例, 血尿, 腎不全, 組織所見

(Nephrol Dial Transplant (2009) 24: 3068–3074)

IgA腎症の治療
(RPGNやネフローゼ症候群は除く)
KDIGOガイドライン 2014より
・血圧コントロールは, ACE阻害薬やARBで行い,
 蛋白尿 <1g/dでは<130/80mmHgを目標に
 蛋白尿 >1g/dでは<125/75mmHgを目標とする.
・免疫抑制療法の適応
 3-6ヶ月のACE阻害薬, ARBによる治療で, 蛋白尿≥1g/dの場合は免疫抑制療法を行う.
 免疫抑制療法はステロイドを主に使用する.
(Am J Kidney Dis. 2014;63(3):363-377)

ステロイドは, eGFR>60mL/minならばmPSL 1g/d 3dを0,1,3,5moで行い, 同時にPSL 0.5mg/kg 隔日投与を6moするレジメ. (J Am Soc Nephrol 22: 1785–1794, 2011.)

日本国内のガイドライン: エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014 
・尿蛋白≥1g/d, CKD G1-2の成人例
 ACE阻害薬/ARB + ステロイドが第一選択.
 免疫抑制剤, 抗血小板薬, 扁桃摘出術は第二選択

・尿蛋白≥1g/d, CKD G3a-bの成人例
 ACE阻害薬/ARBが第一選択
 ステロイド, 免疫抑制剤, 抗血小板薬, 口蓋扁桃摘出術などが第二

・尿蛋白 0.5-0.99g/d, CKD G1-2の成人例
 治療介入の必要性は明確ではない.
 リスク-ベネフィットを考慮して治療を決める
 ACE阻害薬, ステロイドなど

・尿蛋白<0.5g/dでCKD G1-2の成人例
 予後は良好であり経過観察.
 定期的にフォローし増悪傾向あれば治療の介入

・尿蛋白<1g/dでCKD G3-5の成人例

 CKDに準じて治療.

ステロイドはPSL 0.8-1.0mg/kgを2Mその後減量し合計6M
 もしくはmPSL 1g/日を3日, 2ヶ月毎に3回 + PSL 0.5mg/kgを隔日投与を6ヶ月で使用する.
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治療: 高血圧(-), 尿蛋白<0.5g/d, 腎機能正常例では経過観察のみでOK
高血圧(-), 尿タンパク<0.5g/d, 腎機能正常のIgA腎症 60名のRCT.
・Ramipril 2.5mg/d vs Placeboに割り付け, 5年間継続.
アウトカム; 60mo後の各パラメータ
アウトカム
Ramipril
Placebo
P
GFR
108.1±29.0
105.7±17.7
0.7
Event-free survival
81.1%
70.5%
0.266
GFR低下
-0.39±2.57
-0.59±1.63
0.7
タンパク尿(-) 生存率
82.9%
79.3%
0.185
・腎機能に有意差は無し.
 タンパク尿や高血圧は低下する傾向にはある.

軽症IgA腎症ならば経過観察し, 有症状となれば対応する形で良い.(タンパク尿, 高血圧, 腎障害)
(The American Journal of Medicine (2013) 126, 162-168)
治療: 高血圧(+), 蛋白尿≥0.75g/dの症例における治療は?
STOP-IgAN: 腎生検で診断されたIgA腎症患者において, 6ヶ月間の支持療法(ACEI, ARB)を施行し, その後も蛋白尿≥0.75g/dであった162例を対象したopen-label RCT.
(N Engl J Med 2015;373:2225-36.)
・患者群は, 生検で診断されたIgA腎症で, 18-70歳, 蛋白尿≥0.75g/dを満たし
  且つ高血圧(降圧薬使用 or BP≥140/90) and/or 腎機能低下(eGFR<90mL/min)を満たす患者群
・二次性, 急速進行性, 半月形成IgA腎症, 他の慢性腎疾患, 免疫抑制剤使用歴がある患者は除外.

6ヶ月間の支持療法では以下を行っている.
・ACE阻害薬やARBを使用し, 血圧 <125/75mmHgを維持.
・目標血圧を達成しても蛋白尿≥0.75g/dの場合は最大投与量まで増量する
・腎毒性があるNSAIDや薬剤は避けるように指導.
・t-Chol <200mg/dLを維持するようにスタチンを使用する

上記患者群において, 6ヶ月の支持療法でも蛋白尿 0.75g-3.5g/dである群を
 支持療法のみ vs 免疫抑制療法併用群の2群に割り付け, 3年間継続
・蛋白尿>3.5g/d, eGFR<30mL/min, eGFRが基礎値の30%以上低下した例は除外.
・337例中, 6ヶ月の支持療法が完了したのが309例. そのうち 94例がタンパク尿<75g/dを達成.

母集団

免疫抑制療法は以下のレジメを使用
eGFR
免疫抑制療法
≥60mL/min
mPSL 1g/d3日間を0, 1, 3, 5ヶ月目に投与
それ以外はPSL 0.5mg/kgを隔日投与する(6ヶ月間).
30-59mL/min
シクロホスファミド 1.5mg/kg/d3ヶ月間
その後アザチオプリン 1.5mg/kg/dに切り替え, 合計36ヶ月間
上記に併用してPSL 40mg/dを開始し, 3ヶ月で10mg/dまで減量.
3
ヶ月以降は10ml/d3ヶ月, 以後は7.5mg/d36ヶ月まで継続

アウトカム:
臨床的寛解(PCR<0.2達成で定義)は免疫抑制療法群で有意に良好であるが,
腎機能低下は両者で有意差無し.

Cr値, eGFRの変化も有意差なし.

合併症/副作用では, ステロイド性DMや体重増加のリスクが有意に増加. 
感染症のリスクも増加する可能性がある.
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母集団のデータを見ると, 蛋白尿 1.6±0.7, 1.8±0.8と6ヶ月の支持療法後にも蛋白尿の低下がない群ということで, KDIGOガイドラインでも国内のガイドラインでもステロイド治療が推奨されるIgA腎症群と言える.
この群において免疫抑制療法はCRを増加させるものの, 腎機能低下を抑制する効果がなく, むしろステロイドによる弊害のリスクが高まるという結果.

この群でも基本的には支持療法を行い, 腎機能が低下する群でのみ免疫抑制療法を考慮すべきと考えられる.