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2016年3月14日月曜日

PICCよりも末梢ルートのほうが合併症は少ないが, 患者は不満

参考 末梢静脈カテ、1週間以上の留置はNG

「日本VADコンソーシアム(JVADC)」が2016年1月に公表した「輸液カテーテル管理の実践基準」では, 末梢カテーテルを1週間以上使用する患者ではPICCやCVCを使用すべきとのこと.

・例えば, 菌血症で入院した患者で, それが耐性菌であった場合は1週間を超える.
・MRSA肺炎でも, 緑膿菌肺炎でも1週間は超える.
・誤嚥性肺炎で入院し, 改善後も嚥下リハビリを行いつつ、末梢補液を併用する場合も1週間を余裕で超える.
・化膿性脊椎炎でMRSAが原因であった時も4-6週間抗生剤投与が必要となる.

上記の指針をそのまま適応すると, 急性期入院患者でかなりの割合でCVCやPICCを使用せねばならない.
重症でICU管理になるような患者では最初からCVCを確保するが, そうではない患者では一般的なマネージメントとは言えないし, 言いたくない.

ということで、そのようなエビデンスはあるのかどうか, を調べてみました.

成人例で見つかったのは1つのRCTのみ.
(J Thromb Haemost. 2008 Aug;6(8):1281-8)
入院患者で補液を5日以上使用する患者 60例を対象とし, 末梢ルート群 vs PICC群に割り付け比較した単一施設 非盲検ランダム化比較試験
・出血リスクが高い患者, CVCが必要な患者, Cr >1.8mg/dLは除外
・患者は5 FrのシングルルーメンPICC群と18Gの末梢カテーテル群に割り付け.
 PICCは経験のある放射線医より, 透視下で非利き腕の尺側皮静脈か上腕静脈より挿入.
 末梢カテーテルはベッドサイドでナースより, 前腕の静脈より挿入.原則18Gであるが, 14-22Gまで必要に応じて調節可.

フォロー:
・両者とも毎日感染徴候の確認, ドレッシングの交換を行い, 必要に応じて入れ替えを施行.
・血栓症の評価は腕の周囲長, 末梢静脈の拡張を毎日評価. 
 Studyの前後に四肢静脈の圧迫エコーにて血栓症を評価.
・感染症は局所症状の確認と, 発熱時の血液培養2セットを採取
 カテーテル感染が疑わしい場合は抜去し, カテ先培養を評価.
 挿入部の発赤, 浸出液, 膿性分泌物と炎症反応があればカテ感染と判断. 
 PICCでよく認められる, 極限局的な刺入部の発赤は感染とは見なさない.
・また患者満足度も問診票にて評価

患者群のデータ

アウトカム
・Studyは60人導入したところで有意差が出たため中止.
アウトカム
PICC
末梢ルート
P値
DVT, 敗血症, 蜂窩織炎
7(22.6%)
1(3.4%)
0.03
DVT
6(19.4%)
1(3.4%)
0.06
蜂窩織炎
1(3.2%)
0
0.51
敗血症
0
0
0.51
合併症全体 (/1000pt-d)
24.0
4.7
<0.01




表在静脈血栓症
9(29%)
13(44.8%)
0.20
表在静脈血栓症 (/1000pt-d)
30.9
61.4
<0.01
・DVT, 敗血症, 蜂窩織炎は有意にPICC群で多く認められた.
・表在静脈の血栓症は末梢ルートの方がリスクが高い.

患者の満足度の評価
・満足度はPICCの方が良好.
・末梢ルートでは入れ替えが多いのが不評.
・カテーテルの位置は末梢カテーテル群の方が不満は少ない.

ーーーーーーーー
末梢ルートとPICCを比較した成人を対象としたRCTはこの論文しかみつけられませんでした.
ICU患者を対象としたものや, 小児(新生児)を対象としたものはありました.
ICUでは最初に末梢よりはCVCをとったほうがよいという結論,
新生児では両群とも合併症に差はないという結論.

少なくとも, JVADCがいう, 1週間というところになにか根拠があるようには思えません(調べたのはPubmedもしかしたら知らないRCTが国内から出ているかもしれません.)

あまり根拠の乏しく, もしかしたら患者に不利益になることを広めて, 現場を混乱させるのは勘弁願いたいものです.