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2016年3月18日金曜日

ビタミンB12欠乏と銅欠乏による神経障害

ビタミンB12欠乏, といえば巨赤芽球性貧血で有名であるが,
神経障害もなかなか多く, 重要な鑑別疾患の1つとなる.

Vit B12欠乏患者の40%で神経障害を合併する
・ビタミンB12は中枢, 末梢神経におけるミエリン合成に関わるため, 欠乏により脱髄性障害が生じる.
・Vit B12欠乏性神経障害の20%
・逆に巨赤芽球貧血患者の1/3で神経障害(-)
・末梢神経障害, 認知障害など様々な神経障害を呈する.
 また自律神経障害も伴い, 神経因性膀胱の原因にもなる(N Engl J Med 2013;368:149-60.).
神経障害
Vit B12欠乏
正常
32%
認知障害
26%
情動障害
20%
亜急性連合変性症
16%
末梢神経障害
40%
視神経萎縮
2%
(Lancet Neurol 2006;5:949-60)

ビタミンB12欠乏と末梢神経障害
・ビタミンB12欠乏による末梢神経障害は, 多発神経障害のパターンとなる.
 下肢の感覚障害, 振動覚の低下, 深部腱反射低下を認めるが, 後述する亜急性連合脊髄変性症を合併する場合は深部腱反射は亢進し, バビンスキ反射は伸展する.

ビタミンB12欠乏による神経障害の特徴として, 以下の点が挙げられる
 ・より急性に発症
 ・脊髄症状を伴うことが多い
 ・上肢から発症することや, 診断時に上下肢の症状が認められる
 ・巨赤芽球性貧血や栄養障害が認められる
(Handb Clin Neurol. 2014;120:915-26. )

324例の多発神経障害患者(そのうち27例がVit B12欠乏)の症状を評価し, 比較.
(Arch Neurol. 2003;60:1296-1301)
・Vit B12欠乏では突如発症例が30%, 
 上肢を含む神経障害が78%
 上肢から発症した症例が22%と有意に多い結果.

153例のビタミンB12欠乏症例のうち, 114例(74.5%)で神経障害が認められた
(Medicine 1991;70:229-245)
神経症状の頻度
神経症状
n=114


感覚鈍麻, ヒリヒリ感
51
失調歩行
14
上記+ 失調歩行
 + 無嗅覚, 無味覚
 + 便秘
 + 下肢脱力
14
1

1
1
上記
 +
下肢脱力
 +
巧緻運動障害
 +
排尿障害
 +
人格変化
1
上記+下肢脱力
6
記憶障害
4
上記+巧緻運動障害
5
下肢脱力
2
上記+コイン識別困難
2
起立性ふらつき
2
上記+記憶障害
1
味覚、嗅覚低下
2
上記+勃起不全
1
Paranoid psychosis
2


視力低下
1
神経症状のパターン
神経障害パターン

脊髄症±神経症
40.5%
末梢神経症
25%
脊髄症
11.8%
両側性小脳失調
8.1%
視神経症
0.5%
神経異常なしの対麻痺
14.1%
ビタミンB12欠乏と亜急性連合脊髄変性症
亜急性連合脊髄変性症は脊髄の後柱, 側柱に脱髄が生じ, 徐々に増悪する四肢の痺れ, 脱力, 感覚性運動失調, 痙性対麻痺を呈する病態
・バビンスキー反射は陽性となり, 関節位置覚や振動覚は低下する.
・通常左右対称性であり, 片側性の場合は他の原因を考慮.
・末梢神経障害や視神経障害も伴うことがある.
・亜急性連合脊髄変性症のおもな原因はVit B12欠乏であるが, 銅欠乏も同様に亜急性連合脊髄変性症を呈するため注意.
(Handb Clin Neurol. 2014;120:915-26.)

亜急性連合性脊髄変性症の画像所見
ビタミンB12欠乏における脊髄病変は頸髄〜上位胸髄の後索, 側索に生じる.
・前部の障害もまれながら報告されている
(Nutrients. 2013 Nov 15;5(11):4521-39.)

・病変部位はおもに頸髄〜上位胸髄となる
・MRI所見の感度は15-50%程度と高くはない

Vit B12欠乏による亜急性連合変性症 36例中19例(52.8%)でMRIにて脊髄病変を認めた
頸髄病変が12例, 胸髄病変が7例.
・後索病変が18例で, 1例が前部の障害
(Asia Pac J Clin Nutr. 2016 Mar;25(1):34-8.)

Vit B12欠乏による亜急性連合変性症 54例の画像評価では,
MRIで脊髄病変が検出されたのは8例のみ(14.8%)
・病変部位は頸髄がほぼ全例.
・治療により所見は改善.
(J Neurol Sci. 2014 Jul 15;342(1-2):162-6.)


銅欠乏による神経障害
・銅欠乏では失調, 痙性歩行, 神経症, 眼神経症, 運動神経変性を呈する.
・亜急性連合脊髄変性症の原因の1つ.
失調は感覚性失調が主であり, 振動覚の低下を伴うことも多く, 後索障害が示唆される.
・腱反射は減弱するが, Babinski徴候は陽性となる.
(Clinical Chemistry 57:8 1103–1107 (2011))

銅欠乏による脊髄症 13例の解析
(NEUROLOGY 2004;63:33–39 )
・年齢は45-78歳. 
・背景疾患は亜鉛や鉄の摂取, 胃摘出後, 吸収不良が多いが5例は不明.
・症状, 所見: 感覚失調, バビンスキやDTRは亢進, 感覚低下が多い.

Labでは血清Cu, セルロプラスミンの低下が認められる.
亜鉛摂取の病歴がないのに, 亜鉛値が高い例も多い.

神経内科で診断された銅欠乏による神経症 25例
(Mayo Clin Proc. 2006;81(10):1371-1384 )

症状, 血液検査所見, ビタミンB12欠乏の既往
ビタミンB12欠乏の既往がある患者が1/3で認められる.

原因としてあるのは亜鉛摂取, 胃摘出後や胃縮小術, 吸収不良症候群.
原因不明も多くある.
 >> ビタミンB12欠乏のリスク因子ともオーバーラップしている

血清銅の低下し, 血清亜鉛は正常〜上昇することが多い.

銅欠乏による神経症患者の画像評価では頸髄〜胸髄のT2高信号領域が認められる,
・画像所見の分布もVit B12欠乏による亜急性連合脊髄変性症と同様
(Mayo Clin Proc. 2006;81(10):1371-1384 )(NEUROLOGY 2004;63:33–39 )

また銅欠乏でもビタミンB12欠乏と同じように貧血や汎血球減少を呈する.
・機序は異なり, 巨赤芽球性貧血ではなく, MDS様の骨髄所見が認められる.

2003-5年で原因不明の貧血 or MDS疑いでNorth Carolinaの大学病院に紹介された患者126名.
・その内8名(6.3%)がCu欠乏症であった. 
・年齢 32-71yr, 全例女性. MCV 81-101. 7例が正球性, 1例のみ大球性.
骨髄異形成は7/8で(+). Neu減少合併7/8, 神経障害5/8.
・基礎疾患; 慢性下痢, MGUS, 胃摘後3例, IBS, 無しが2例
(Am. J. Hematol. 82:625–630, 2007)

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ビタミンB12欠乏により神経障害や精神症状を呈する.
・貧血を伴わない例も多く, それら症状がある場合は必ず鑑別に.
・ビタミンB12欠乏による神経障害の特徴は上肢も絡みやすい点, 脊髄症状も伴う点.

銅欠乏とビタミンB12欠乏のプレゼンテーションは酷似しているため, セットで押さえる.
・リスク因子もオーバーラップする.
また, 合併していることもあり得る
・Vit B12補充でも反応が軽度あるが, 不十分な場合, 銅欠乏の合併の可能性もあるため, 評価した方が良い