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2016年3月31日木曜日

慢性偽性腸閉塞 Chronic Intestinal Pseudo-obstruction: CIPO

慢性偽性腸閉塞
(Rev Esp Enferm Dig 2007; 99: 100-111.)

CIPOは繰り返す閉塞部位を認めない腸閉塞症状を呈する病態
・稀な病態であり, 診断も難しく, 発症~診断まではかなりの時間を要する(平均8年間).
・また精神科紹介される患者や不要な手術を受ける患者も多い.

小腸の蠕動障害により, 内容物を排出できない.
・腸管平滑筋の異常, 神経の異常, もしくはその双方が原因となる
 全身疾患に付随する二次性もあり.
 近年, 特発性症例の報告が増加している.
・腸管だけでなく, 様々な平滑筋の機能低下が認められるため, 偽性閉塞(Pseudo-obstruction)の方が病態にあっている.

消化管には自律神経、腸管壁神経叢、平滑筋のネットワークがあり
・食物を感知し, それに応じて蠕動運動を誘発する.
 Cajal間質細胞はペースメーカーとしての役割があり, 蠕動に関与.
・これらネットワークが障害を受けると蠕動障害を生じる.

CIPOは腸管における神経筋障害のもっとも重症なタイプ
・他の蠕動障害を呈する疾患との鑑別は重要.
 再発性の腹痛症, 機能性ジスペプシア, IBS, 周期性嘔吐症など

CIPOは生後~高齢者までどの年齢でも発症して良い
・家族性の報告もあるが, 大半が孤発性である
・二次性では全身性硬化症, 膠原病, 糖尿病, 神経変性疾患, 薬剤性, 甲状腺機能低下症, 感染症, 腫瘍随伴性, アミロイドーシス, 放射線治療後 の報告が多い
・感染症ではCMV, VZV, EBVの感染後にCIPOが発症する症例報告が増加
・腫瘍随伴性では, 抗-Hu抗体が関連.
 肺小細胞癌, リンパ腫, カルチノイド, 乳癌, 卵巣がん
 多発性骨髄腫も原因となる
 腫瘍性は40歳以降の発症例で考慮すべきである


ミトコンドリア筋症

日本国内のCIPO 160例の原因頻度
(Digestion 2012;86:12–19)

CIPOの臨床症状
CIPOの症状は原因, 障害部位, 範囲(局所, びまん性)で異なる
・緩徐に発症し, 数年かけて徐々に増悪する経過となることが多い
・症状は腹痛や腹部膨満が80%, 悪心嘔吐が75%, 便秘が40%, 下痢が20%
・障害部位が上部消化管ならば悪心嘔吐が強い
 びまん性ならば腹部全体の疼痛や便秘が多くなる.
・腹痛の機序は2つあり,
 1つは腸管の拡張による疼痛
  >> 拡張の程度で増悪, 寛解する
 もう一つは平滑筋のスパスムと臓器の過痛症による疼痛
  >> 拡張に関係なく疼痛が生じる

CIPOでは小腸内の細菌過増殖症候群も生じ, 吸収不良症候群や慢性下痢も呈する.
・胃の蠕動障害ではGastroparesisとなる

食道の蠕動障害では嚥下障害や胸痛, 逆流, 胸やけがあるが, 多発性硬化症によるCIPO以外では少ない症状
・食道の神経叢障害ではアカラシアやびまん性食道れん縮も生じる

CIPOの所見
所見も障害部位により異なる
・衰弱や消耗, 羸痩や腹部の膨隆.
・腹部の腸液が跳ねる音 (小腸ならば腹部中央, 左上腹部ならば胃)
・腹部の打診では鼓音を聴取する
・腹壁から腸管のループが確認できることもある

二次性では消化管以外の所見が得られる

CIPO 160例の初診時の症状, 所見
(Digestion 2012;86:12–19)

CIPOの診断
世界的な診断クライテリアはなく,
 疑うような症状があり,
 小腸の拡張が認められ,
 他の疾患が除外される場合にCIPOと診断

CIPOを疑う症状, 所見, 経過
(Gastroenterol Clin N Am 40 (2011) 787– 807)

日本国内には厚生労働省のCIPO診断基準がある
(Digestion 2012;86:12–19)

二次性の評価
・通常の血液検査, 甲状腺, Celiac disease, 代謝性疾患, ウイルス感染症, 抗Hu抗体(ANNA-1抗体), 細菌過増殖症候群の評価

二次性の可能性が低ければ, 機械的閉塞を除外したのちに特発性CIPOの評価を行う
・消化管のManometry
・消化管生検による組織所見の評価 (内視鏡ではなく, 腹腔鏡で全層生検が好ましい)
・筋生検
・頭部MRI(ミトコンドリア関連疾患の評価)

診断の流れ:
(Rev Esp Enferm Dig 2007; 99: 100-111.)

CIPOの治療
治療の目標は症状の緩和と栄養状態の改善

二次性CIPOでは背景疾患の治療は重要.
・強皮症のようにそれだけでは改善しないものもある

特発性CIPOの治療も病態によって様々である
・炎症や自己免疫機序が関わっているならばステロイドが効果的
 ウイルス感染ではウイルスの治療が効果的と考えられる
・栄養状態を改善させることで症状も緩和する可能性もある

食事は調子が良ければなるべく経口から摂取
・1日に6-8回に分け, 1回あたりは少量に.
 脂質と繊維を少なめにすると良い.
 また, ガス産生するような食物は避ける.
・ガムを噛んだりやストローで液体を飲むと, 空気を嚥下してしまうため, それらの行為は避ける.
・ビタミン欠乏や電解質異常があれば積極的に補正
 特にビタミン A,D,K, B12, 葉酸, カルシウム, 鉄は重要

経口から困難な場合は経管栄養で24時間継続したり, 中心静脈栄養を考慮する必要がある
・中心静脈栄養は最終手段と考える

薬剤治療
・腸管蠕動を阻害するような抗鬱薬やオピオイド, 抗コリン薬は避ける
・嘔気が強い場合はメトクロプラミドやドンペリドンを考慮
 オンダンセトロンなども試される.
・腹痛に対しては, NSAIDやオピオイドは避ける
 コレシストキニン拮抗薬(プログルミド), セロトニン作動薬, 拮抗薬, ソマトスタチン, カンナビノイドアナログなどを考慮
 また, ガバペンチンもよかもしれない
・細菌過増殖症候群はCIPOにおける吸収不良や下痢に関わる
 抗生剤投与が効果的.
 抗生剤を1ヶ月に7-10日間投与を繰り返す.
 CPFX, AMPC/CLA, MNZ, DOXYなど

蠕動障害に対する治療
・5-HT4アゴニスト: シサプリド(アセナリン錠®) >> 販売中止
 腸管におけるアセチルコリンの分泌を促進させる.
 副作用として頻脈, QT延長があり販売中止.
・他の蠕動促進剤としてはエリスロマイシン, オクトレオチド,
テガセロド, ミソプロストール(サイトテック®)があるが,
効果は様々.
・オクトレオチドの寝前皮下注は強皮症のCIPOへの効果は良好だが保険適応はない.
・テガセロドはシサプリドに類似した作用があり, 不整脈リスクは少ない薬剤だが, 国内は未承認

最重症患者では, 中心静脈栄養を行いつつ腹部症状の緩和のために小腸切除を行う場合もある
・外科治療は癒着性イレウスのリスクも増加するためできる限り避ける

CIPOに対する薬剤治療の研究 まとめ
(Gastroenterol Clin N Am 40 (2011) 787– 807)