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2016年5月10日火曜日

食後低血圧(Postprandial hypotension)

Postprandial hypotension
(The American Journal of Medicine (2010) 123, 281.e1-281.e6)
食事に関連して血圧が低下し, 失神を呈する病態.
高齢者の失神の原因としてコモンであるものの, あまり気づかれていない.
・高齢者の25-38%で食事に関連した血圧低下が認められる報告もある
 多い報告では67%で認められるとも.
・Postprandial Hypotensionは, 食後2時間以内にsBPが20mmHg以上低下するか, 元々100mmHg以上ある血圧が<90mmHgとなる場合で定義
・血圧低下に伴い失神や転倒, 冠動脈イベント, 脳梗塞のリスクにもなる
・高齢者で失神や転倒で受診した患者の23%でPostprandial hypotensionが認められる報告もあり.

低血圧となる機序は未だ明らかではない.
・食事に伴い臓器血流が増加し, 通常血圧は若干低下する.
 Postprandial hypotensionでは, その低下した血圧へ身体が正常に反応できないため生じる可能性が高い(HRやSVの増加, 末梢血管抵抗の亢進などの変化)
・高齢者において, 食後の循環動態の変化へ対応するためには交感神経活動が200%に上昇する必要がある

Postprandial hypotensionのリスク因子
・Polypharmacyや利尿薬の使用
・炭水化物が多い食事, 暖かい食事, 朝食
・自律神経障害を呈する基礎疾患などがリスクとなる.
・特に朝食と昼食時に血圧低下が高度となりやすい

炭水化物の量と血圧の変動:

12例の診断のついたPostprandial hypotension患者に対して, 炭水化物量 25g, 65g, 125gの3種類の栄養剤をランダムに3日間に分けて摂取し, 血圧を評価.
(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001 Dec;56(12):M744-8.)
血圧は食前20分〜食後75分の間, 5分ごとに評価.


・炭水化物が多いほど, 血圧の低下, 低下時間が増悪する結果.
・症状も炭水化物が多いほど頻度が高くなる.

グルコースの摂取速度と血圧
・グルコースの投与速度を生理食塩水(S), 1kcal/分(G1), 2kcal/分(G2), 3kcal/分(G3)とした時の血圧の変動
(JAMDA 15 (2014) 394-409)

血圧の変動は朝がもっとも大きい
(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000 Sep;55(9):M535-40.)

Postprandial hypotensionの診断
・高齢者における失神や, 転倒では必ずこの疾患を考慮すべき
 さらにパーキンソン病や糖尿病, 末期腎不全患者では特に疑う
・評価は血圧の持続的な測定.
 朝食, 昼食時〜食後2時間以上血圧をモニタリング.
 24時間の持続的なモニタリングも重症度を評価するために行う
・血圧測定の間隔は10分程度が良い
・血圧の低下は食後35分〜1時間以内に認められることが多い
・食事における血圧の変動は診断に有用(特異性が高い)が感度は低いため, 正常でも除外が困難. 複数回評価する必要もある.
・血圧低下のカットオフはsBP20mmHg以上であるが, これもEvidenceがあるわけでもない. 
 症状があり, 血圧低下があれば有意と考えても良い

Postprandial hypotensionの治療
・非薬物治療では, 飲水や炭水化物制限, 1回の食事量の減量, 姿勢などの指導
・飲水は100mlよりも500mlの方が血圧低下予防効果は良好 (Clinical Nutrition 34 (2015) 885-891)
・間欠的な運動習慣も血圧低下予防に有用(JAMDA 16 (2015) 160e164)
・薬物ではカフェインやα-GIなどが試されるが効果が明確なものはまだない