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2016年7月23日土曜日

5-FUによる高アンモニア血症

Snap diagnosis:大腸癌, 多発肝転移にて化学療法を施行中の患者.
 化学療法施行の翌日, 意識障害, 痙攣重積を来し搬送.
 血中アンモニア値が>900µg/dLと著明高値であった.

化学療法はFOLFILI. さて, 原因は?
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化学療法による高アンモニア血症

化学療法では, Cytarabine, vincristine, amsacrine, etoposide, L-asparaginase, cyclophosphamide, 5-fluorouracilを含むレジメで高アンモニア血症の報告がある.
・血液腫瘍(急性白血病, 多発性骨髄腫, リンパ腫)や, 幹細胞移植で高アンモニア血症の報告があるほか, 消化管腫瘍や乳がんに対する5-FUを含む化学療法で重度の高アンモニア血症, 脳症の報告が多い
(Leukemia & Lymphoma, September 2007; 48(9): 1702 – 1711)

5-FUによる高アンモニア血症
5-FUは稀であるが, 重度の高アンモニア血症を引き起こす事が知られている.
・5-FUの代謝産物であるFluoroacetateがクエン酸回路を障害し, その結果尿素回路も遅延し, アンモニアが蓄積する機序が推測
(Auris Nasus Larynx 35 (2008) 295–299)

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構のHPでは, 2013年までに5-FUによる高アンモニア血症は131例で報告され, そのうち4例で死亡.
(日消誌 2015;112:287―296)

高用量5-FU(2600mg/m2を24hで持続投与/wk)を行った280例中, 5-FUに由来する脳症を併発したのは5.7%.
・投与〜発症までは19.5時間[10-30], 5-FU中断から改善までは15時間[3-72]
・脳症(+)患者は血清アンモニア高値, 乳酸値高値に関連性あり.
(British Journal of Cancer 1997;75:464-65)

日本国内で報告された20例の解析では,
・平均年齢は69.4歳, 男性例が15例と多い.
・またeGFRは49.9ml/minと軽度低下しており, 腎不全が関連している可能性がある.

20例中10例が1コース目で生じていた.
平均アンモニア値は371.5µg/dLで, 治療後2日後には改善する例が大半であった.
・化学療法〜症状発症までの期間は1-6日. 17/20が3日以内
(日消誌 2015;112:287―296)

悪性腫瘍で5-FUの持続投与を行った患者群で, 一過性の高アンモニア血症による脳症を発症した29例, 32件の解析.
(Anti-Cancer Drug 1999;10:275-81)
・投与後〜脳症発症までは0.5日〜5日. 平均2.6±1.3日.
・血清アンモニア値は248~2387µg/dL
・感染症の併発や, 脱水症, 尿毒症, 便秘が関連している可能性.
・高用量では発症までの期間も短く, アンモニア濃度も高い.
 感染症併発例も同様.

5-FUによる意識障害は他にもある
・Dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)欠乏症: DPDは5-FUを代謝する主な酵素であり, これが欠損している場合5-FUが蓄積を起こす.
 5-FUが蓄積するとCSFへ移行し, 脱髄を生じる.

・PRES: 化学療法全般で生じる可能性がある
(Ann Surg Treat Res 2016;90(3):179-182)(Auris Nasus Larynx 35 (2008) 295–299 )

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というわけで5-FUを含むレジメに伴う高アンモニア血症でした.
化学療法中の患者での意識障害や痙攣ではアンモニアはチェックする習慣をつけましょう.
稀ながら, あります. 
自然に改善することも多いので, 軽症例は気づかれていない事が多いのかもしれません.