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2016年11月7日月曜日

心不全における少量Carperitide(ハンプ)治療

CarperitideはrhANPであり, 急性期のうっ血性心不全の治療で使用される.
・血管拡張作用, 利尿作用が期待できる.
・国内で開発, 使用されている薬剤であり, 正直な所エビデンスが不十分ではあるが, 循環器科での使用頻度は高い. 個人的には使ったことはあまりない.

Carperitideを評価したRCTは少なく, まずは海外で使用されているrhBNPであるNesiritideのStudyを紹介する.

ASCEND-HF study
(N Engl J Med 2011;365:32-43.)
・急性心不全で入院した7141名のDB-RCT.
・通常の治療 + Nesiritide併用 vs Placeboに割り付け24-168hr継続.
 Nesiritide 2µg/kg bolus → 0.010µg/kg/min, 24-168hr継続.
・低血圧リスク(+)群は除外(sBP<100),EF<40%は全体の80%
・6-24hrの呼吸苦, 30d以内の再入院, 死亡率を比較.
 →呼吸苦はやや改善傾向だが, 死亡率, 再入院率は有意差無し.

・NesiritideでOutcomeが向上することは無いが, 低血圧のリスクが有意に高くなっている.

ROSE trial; 急性心不全+腎不全(eGFR 15-60)の360名を対象としたDB-RCT.
(JAMA. 2013;310(23):2533-2543.)
・入院24h以内にDopamine群とNesiritide群に割り付け, 両群はさらに2:1の割合で治療群 vs Placebo群に割り付けられ, 各群で投薬 vs Placeboで比較するデザイン.
 Dopamineは2µg/kg/minで72h投与 (Low-dose DOA)
 Nesiritideは0.005µg/kg/minで72h投与 (Low-dose Nesiritide)
・両群とも利尿薬は使用. 他の薬剤は主治医の判断で使用する.
 Na制限は2g/d, 水分制限は2L/dとした.

尿量, Cystatin C値は両群でPlaceboと有意差無し.
・Cre値の変動や, 自覚症状, 死亡リスクも両者有意差無し.
・薬剤投与群では低血圧と頻脈による投与中断リスクが上昇する.

Nesiritide vs 硝酸薬を比較した5 RCTsのmeta
(Medicine (2016) 95:44(e4757) )
アウトカム
OR
全死亡リスク
1.12[0.75-1.65]
再入院リスク
0.79[0.54-1.16]
低血圧リスク
1.18[0.74-1.88]
腎不全リスク
1.31[0.08-21.03]
・特にアウトカムで優れているところはない結論.
・ただし, アジア人を対象とした2 RCTsのみのMetaでは腎不全リスクの低下効果が期待できる(OR 0.19[0.07-0.50])結果であった


Carperitideを評価したStudy

PROTECT trial: 急性非代償性心不全患者49例を対象としたopen-label RCT.
(Circ J 2008; 72: 1787 – 1793)
・患者はNYHA III-IV, LVEF≤45%, 呼吸苦(+), 入院後24h以内に治療開始可能な患者群を対象.
・除外項目: sBP<90mmHg, 心原性ショック, 人工呼吸器管理, 脱水, 3ヶ月以内のMI, 重症臓器不全, 重度の感染症, 妊婦, 授乳婦など.
 医師の判断で不適切と考えられる患者は除外可能.

上記を満たす患者を低用量Carperitide群 vs 他の治療群に割り付け, 予後を比較.
・Carperitideは0.01-0.05µg/kg/minを72h使用する.

母集団データと両群での治療薬使用頻度
・Control群では硝酸剤を多く使用.
・利尿薬や強心作用のある薬剤使用頻度は有意差なし.

アウトカム: Carperitide群の方が長期的な心血管イベント抑制効果が認められる
・グラフを見る限りは100日までは有意差はない
・入院期間はCarperitideで54.8±44.9日間
 Control群で35.9±21.4日 有意差はないと記載あり

3日間使用したCarperitideが100日以降の心血管予後に関連する・・・というのはさすがに飛躍しすぎでは?
またN=49とかなりの小規模studyであるが, サンプルサイズの記載は論文上には見つけることができなかった.

AVCMA trial: Carperitide vs Tolvaptanの比較
(The Journal of Clinical Pharmacology 2013; 53(12) 1277–1285)
・急性非代償性心不全 109例を対象とした多施設RCT.
・体液貯留による急性非代償性心不全患者を対象(以下のいずれかを満たす). 
 患者は呼吸苦, 起座呼吸, 下肢浮腫の1つ以上の症状を認め, ラ音, 末梢浮腫, 腹水, 胸部XPで肺うっ血像の1つ以上を認める.
・急性心筋梗塞, 重度の低血圧, 無尿, Na>147mEq/L, 口渇感を感じない患者や自力で飲水ができない患者は除外.
・上記を満たす患者群をまずはループ利尿薬で治療を開始し, その後以下の2郡に割り付け;
 経口Tolvaptan群: 3.75-15mg/d
 Carperitide持続静注群: 0.0125-0.025µg/kg
・治療経過, 各種パラメータを比較.

アウトカム: 尿量の推移
・尿量はTolvaptanで有意に増加するが, 飲水量も有意に増加してしまう

各種パラメータ: 両群で差があるのはNa値程度.
 CarperitideではBPは低下する.


また, 両群で副作用治療中断例は8例.

・Tolvaptan群は1例で高Na血症によるもの
 Carperitide群は7例で, 低血圧が5例, 肝障害が1例, HF増悪が1例
 両群で有意差はない(12.7% vs 1.9%, p=0.060)

費用の計算では, Tolvaptanを使用した方が安い
・平均コストは39778円 vs 15062円(p<0.001)

短期的なrhANPによる症状, パラメータの変化をフォローしたStudy
急性非代償性心不全患者477例を対象としたDB-RCT.
(Medicine 95(9):e2947)
・rhANPを1時間持続投与 + 通常治療を行う群 vs. 通常治療のみ行う群に3:1で割り付け, 症状, PCWP変動を比較
・rhANPは0.1µg/kg/minで開始し, 30分後にsBP>100mmHg, PCWP>15mmHgならば0.15に増量. 合計1時間継続し終了 
・利尿薬, 硝酸剤, β阻害薬, ACEI, ARB, スピロノラクトン, 経口血管作動薬はStudy中も継続可能. ただし利尿薬やニトロプルシドの持続投与は中止.

・患者はNYHA III-IVの心不全で, LVEF≤40%, sBP≥90mmHgを満たし, 画像上肺水腫が確認された症例を対象.
 さらにSGカテーテルにてPCWP≥13mmHgを確認された症例はカテーテル評価群として導入された.
・心筋梗塞, 複雑性先天性心疾患, 著明な弁狭窄症, 収縮性心膜炎, 肥大型, 閉塞性, 拘束性心筋症, VF, VT, ペースメーカーの留置がない3度AVB, Mobitz II ABVは除外.
・他に肝障害, 顕著な電解質異常, 腎不全, 妊婦, 利尿薬やニトロプルシドを持続投与しており, 中断不可能な患者も除外.

アウトカム: 呼吸苦の変化
・12時間後の呼吸苦はrhANPでより改善が良好な傾向があるが>2段階改善をアウトカムとすると有意差はない(OR 1.38[0.86-2.21])
・それ以外にどの時間帯でも呼吸苦の変化は両者で変わりない

・rhANPはPCWPの減少効果, CIを上昇効果がある.
・血管抵抗は低下し, 血圧も低下する.

Carperitide(ハンプ®)は死亡リスク上昇する可能性も
急性心不全で治療された患者群のRetrospective study.
(J Cardiac Fail 2015;21:859e864)
・このうちCarperitideを使用されたのは402例(38.7%)
 Propensity-matched analysisにおいて, Carperitide使用群 367例, 非使用群 367例を抽出し, 比較.
・院内死亡率は有意にCarperitide使用群で高い結果.
 Carperitide使用群で9.8%, 非使用群で4.9%, OR 2.13[1.17-3.85]
・特に高齢者や腎不全がある患者ではCarperitideは避けるべきかもしれない

Carperitide投与中の患者における腎不全増悪リスク
・倉敷中央病院において, 急性非代償性心不全でCarperitideを初期から使用された患者群を解析.
・心筋梗塞, 心停止, 心筋炎, 重症感染症, 重症甲状腺疾患, 重症臓器不全, 医原性心不全, 腎代替療法・PCPS・IABP施行例は除外
また, 他の心血管系に作用する薬剤の併用例も除外(強心剤, 血管収縮, 拡張剤)

上記を満たす204例中, 腎不全増悪(Cr≥0.3mg/dLの増悪で定義)を認めたのは14例(7%)
・この期間にADHFに対してCarperitideを使用されたのが1844例.
・対照群の平均年齢は75.6±12.1歳. 

Carperitideに関連する腎不全増悪リスク
・腎不全増悪群 vs 非増悪群の比較では, 元々のCr値, 投与開始後12h以内にsBP<90mmHgとなる症例で腎不全増悪リスクが高い.

元々のeGFRが<60mL/minで, さらに投与後12h以内にsBP<90mmHgとなる場合, 22.6%で腎不全増悪を認める.
・さらに低血圧のリスク因子は基礎のsBP≤110mmHg

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長々と書いてきましたが, まとめると
rhBNPは硝酸薬など通常の治療と比較してあまり利点はない.
 一方でアジア人を対象としたStudyでは腎機能増悪リスク軽減効果が期待できるかも.
rhANPもrhBNPと同様, 他の治療と比較して突出した利点はない.
 低血圧にて継続できない症例が一定数存在する.
 また低血圧となる場合, 腎機能増悪リスクとなる可能性がある. 
 特に基礎血圧 ≤110mmHgではrhANP投与後に低血圧となる可能性があり, 注意.
 また高齢者でも注意すべきであろう.

以上から, GIMで診るような心不全(大体が高齢者)ではあまり出番はないのではないか、と個人的に思う. 
実際のところ使わないことが多く, Carperitideは専門医が使用すべき薬剤と思っている.