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2016年11月21日月曜日

PPIと肝性脳症

PPIは非常によく使用される薬剤の1つ. そして長期間使用される傾向がある.
胃酸分泌抑制作用も強いため, しばしば長期使用により不利益も認められる.

・胃酸濃度が下がることによる消化不良(ビタミンB12欠乏など)
・胃酸濃度が下がることによる腸内細菌過増殖 など.

この腸内細菌過増殖により, 肝硬変患者では肝性脳症リスクやSBPリスクが上昇することも指摘されている.

肝硬変の腹水に対するStavaptanの効果を評価した3つのtrialsにおいて, PPI使用と肝性脳症, SBPの関連性を評価した報告
(HEPATOLOGY 2016;64:1265-1272)

肝性脳症リスクとしては
・PPI使用HR 1.36[1.01-1.84]
・高齢者(10歳上昇毎) HR 1.20[1.02-1.40]
・食道静脈瘤出血 HR 9.97[4.25-23.4]

SBPのリスク因子(HR)
・PPI使用 1.72[1.10-2.69]
・MELD(1pt毎) 1.07[1.02-1.11]
・Na(5mEql/L上昇) 0.66[0.54-0.80]
・Alb(0.5g/dL上昇) 0.76[0.63-0.93]
・SBP既往 3.43[2.05-5.76]

PPIは双方のリスクとなる.

台湾のNational Health Insurance beneficiariesのデータベースで1998-2011年に肝硬変による肝性脳症を発症した1166例と肝性脳症(-)の進行肝硬変例を抽出し比較
(Proton Pump Inhibitors Increase Risk for Hepatic Encephalopathy in Patients With Cirrhosis in Population Study. Gastroenterology 2016)
・PPI使用は合計30日間以上使用した症例(cDDD>30)で定義.
PPIは有意に肝性脳症のリスクを上昇させる.
また, 長期間の投与ほどリスク上昇も高度となる.

肝硬変患者では, 門脈圧亢進症や食道静脈瘤出血, EVL後潰瘍などでPPIを入れたくなる気持ちはわかりますが, 長期とならないように注意する必要がありそうです.

ちなみに, これらの予防効果があるかというと...

2015年のMetaでは, (Ann Pharmacother. 2015 Feb;49(2):207-19.)
・PPIは待機的なEsophageal ligation後の潰瘍治癒, 再出血予防効果のみ認められており, 長期的な食道静脈瘤出血予防効果や, 門脈圧亢進性胃症に伴う消化管出血予防効果は証明されていない.
・また, 食道静脈瘤出血後の高用量PPI使用の意義も証明されていないのが現状である

Ligation後に10日程度PPIを使用することは理にかなうが, 他は正直微妙なところ.