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2016年11月24日木曜日

Tolosa-Hunt症候群(THS)

Tolosa-Hunt症候群は, 眼窩周囲, 側頭部の疼痛を伴う眼球運動障害があり, 同側の眼球運動神経麻痺, 眼交感神経麻痺, 眼球や三叉神経領域の感覚障害を伴う特発性の病態で定義される.
・上記の症状の組み合わせで発症することが多く海綿静脈洞や上眼窩裂で障害されていると考えられる.
・非特異的な炎症, 肉芽腫形成によるもので, ステロイドに反応し, 寛解増悪を呈する病態をTHSと呼ぶ
・基本的に除外診断であり, 海綿静脈洞症候群を呈する疾患の除外が重要
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)

THSの特徴
・THSはどの年代にも発症し得る.
・左右どちらでも出現し, 両側性のことも希ながらある.
・発症様式は急性経過であることが多い
・疼痛は未治療では8wk程度持続する.
・眼球運動麻痺は疼痛と同時期か, 疼痛出現後〜2wkで出現. 
・眼窩周囲の刺されるような, 強い疼痛であることが多い
 眼窩後部や前頭部, 側頭部痛となることもある.
・眼交感神経が障害され, Horner兆候が出現することもある.
・視神経障害の合併も報告されている.
・ステロイド投与により疼痛は72時間以内に改善する.
・眼球運動障害の改善には疼痛よりも時間がかかる.
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)

THSの診断
THSは除外診断であり, 同様の症候を呈する病態の評価が大事
特に画像検査は重要

同様の病態を呈する疾患
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)

診断クライテリア(ICHD-II, ICHD-III)
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)

診断基準の特異性は低いため注意が必要
ICHD-2クライテリアを満たす124例中, 39例はTHS以外による病変が原因であった.
・その疾患の内訳
(Cephalalgia, 2006, 26, 772–781)

25例のTHSと36例の他の有痛性眼筋麻痺(SPO)症例を比較
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)
・ICHD-3クライテリアのいける典型的症状, 画像所見の感度, 特異度は以下のとおり
典型的でもTHSに対する特異性は不十分であり, 非典型的ならば当然まず他の疾患を考慮すべきである.

THSの画像所見
ICHD-2における画像クライテリア

典型的な画像所見
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)


THSの治療
・治療はステロイドであるが, 投与量は決まっていない.
・小児のTHS症例の報告では, ステロイドは低用量〜高用量まで様々.
 疼痛は72h以内に改善するが,
 麻痺症状の改善は72h以上かかる.(2wk〜1ヶ月以内が多い. 最長6ヶ月, 最短4日)
・中等用量以上の方が再発リスクは少ない可能性
(Pediatric Neurology 62 (2016) 18-26)

THSの症例Review
ICHD-IIのクライテリアを満たす62例のLiterature review.
(Cephalalgia, 2008, 28, 577–584)
・さらにTHS群(海綿静脈洞, 眼窩先端, 眼窩内の炎症のみ or 炎症なし)
 THS plus群(上記以外に炎症波及あり)
 OM群(orbital myositis: 外眼筋炎合併)に分類
・各群における特徴, 症状の経過
・疼痛は72h以内の改善が6-7割. OMでは改善までの期間が長い傾向.
 所見は72h以上経過して改善することが多い

ICHD-IIIクライテリアを満たすTHS患者22例の解析
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)
・男性9例, 女性13例, 年齢は24-79歳まで分布
・神経障害の分布と頻度

画像所見の分布と頻度

ステロイドへの反応性
・疼痛は72h以内の改善が大半. 神経障害は72h以上かかって改善.
 疼痛改善までは1.77±1.11日, 範囲1-5日
 麻痺改善までは2.23±1.27日, 範囲1-6日
  完全寛解までは15.74±11.91日, 範囲7-60日
・ステロイド投与量はデキサメサゾン 10-15mg/日を3日間, その後症状, 所見に合わせて減量する方法