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2018年2月2日金曜日

細菌性髄膜炎で腰椎穿刺前にCTを評価することは予後増悪につながる可能性がある

細菌性髄膜炎を疑った場合, 腰椎穿刺と早期の抗菌薬投与±ステロイド投与は重要.

腰椎穿刺前に頭部CTを評価するかどうかは昔から議論が盛んな分野.
ガイドラインでは以下の場合にCTを行うべきという指針がある.
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(3):321–8 )

Swedish Guideline
ESCMID
IDSA
意識障害
刺激に反応しない昏睡, GCS<6,
RLS>5で対光反射に反応なし, 後弓反張, 呼吸リズムの異常, 徐脈+高血圧
GCS<10, RLS>3
GCS<15, RLS>1
神経所見
片麻痺, 神経局所症状,
>4日持続する神経症状がある,
髄膜炎で説明できない症状がある
片麻痺, 神経局所症状
片麻痺, 神経局所症状
眼球運動の異常, 視野の異常, 瞳孔散大
新規痙攣発作
1週間以内の痙攣発作
1週間以内の痙攣発作
重症免疫不全の合併
移植レシピエント, HIV, 重度の免疫抑制療法
移植レシピエント, HIV, 重度の免疫抑制療法
CNS疾患の既往
脳腫瘍, 脳卒中, 中枢感染症の既往
乳頭浮腫
あり
European Society for Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID), 
Infectious Diseases Society of America (IDSA) guidelines. 
: ガイドラインで言及なし

スウェーデンにおける細菌性髄膜炎の前向きCohort
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(3):321–8)
・815例の細菌性髄膜炎のうち, LP前に頭部CTを施行したのは378.
・CT施行群の方が抗菌薬やステロイド投与までの時間が長くなる.
全体の院内死亡率は8%.
2-6ヶ月での神経予後良好(Glasgow outcome score 5 + 神経学的後遺症や聴覚障害の残存無しで定義)50%.

LP前のCT検査の推奨適応は,
・Swedish guideline7%,
 ESCMID32%
 IDSA65%
各種ガイドラインのAdherence,
 Swedish guideline48%, ESCMID53%, IDSA57%
 (Adherenceはガイドラインで推奨された場合に撮影し, 非推奨では撮影なしでLPを施行した症例で定義)

各ガイドラインのAdherenceアウトカムへの影響.

・Swedish guidelineではAdherenceがある方が死亡リスクが減少し, 神経学的予後の改善が良好となる.
 >> つまり必要なガイドラインで推奨される症例のみでCTを評価するほうが予後が良い.
・ESCMIDでも死亡リスクの改善あり. ただし神経予後は有意差なし.
IDSAに準拠することはは神経予後の増悪リスクとなってしまう.

つまり, LP前の頭部CTの閾値を低くすればするほど, 予後の増悪につながる結果.

LP前にCT評価をするかどうかで比較したアウトカム.

・各ガイドラインでLP前のCTを推奨しない患者群()CTを行った場合, 予後増悪因子となる.
・ESCMID, IDSAで「CTを行うべき」患者群でも, CTを優先すると予後増悪因子.
・Swedish guidelineでは, CTを行うべき」患者群でCTを優先した場合, 死亡リスクとはならないが, 神経予後不良リスクにはなり得る.

来院時の意識状態で見たアウトカム
・どの患者群でもLP前のCT検査では予後増悪因子.

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細菌性髄膜炎を疑った場合, とかく迅速に抗菌薬を開始することが重要.
そのためには早期に腰椎穿刺を進めねばならない.
CTを見てから・・・とすると, その分精査や治療が遅れる. そしてそれが予後増悪につながる可能性がある.

ガイドラインではどの患者でCTを優先するかを推奨しているが, その閾値が低く, 逆に治療の遅れとなっている可能性がある点は非常に注意が必要.

CTを評価した方が良いと判断した場合は早期にすべきだし, 場合によってはCT前の抗菌薬投与も考慮すべきということになる.

いままでは細菌性性髄膜炎を疑った場合, 「腰椎穿刺の前に抗菌薬」だったのが、今後は「不要ならばCTしない, CTする場合はCTの前に抗菌薬」ということを念頭に置く必要がある.